魔王様と過去の話①
「赤毛の聖女が随分とお気に入りのようですね」
「んー?」
数日間宿泊していた宿を引き払い、セルドランの街から出てしばらくたった後。
ふと小さなボヤキ声が聞こえて、私は背後を振り返った。
その声の主はあからさまにマズ、という顔をしていたので考えが思わず口から出てしまった感じだろう。
そんなシエラに向けて私はにんまりと笑みを向けると、歩を緩めてシエラの頭を抱えて撫でる。
「嫉妬とか、可愛いわねー。シエラちゃんは」
「ちょっ……リン様」
「心配しなくても、シエラも滅茶苦茶お気に入りよー?」
そう言ってシエラの額にキスをすると彼女は顔を赤くしてうつ向いてしまった。……なんかその後ろにいるアヤネが微妙な表情をしているけど、それは"またやってる"なのか"なにを見せられているのか"のどっちの感情かしら?
「お姉さま、わたくしはお姉さまのお気に入りですか!?」
「勿論」
答えると、フレアが私の体で支えつつ背伸びをしてきた。一瞬何かと思ったけどすぐに彼女が求めているのかすぐに理解できたので、その額に先ほどと同じようにキスを落とすと彼女は満面の笑みを浮かべる。
「ユキとアヤネもする?」
「私の事はお気になさらず」
「不要だ」
フレアに笑顔を返してから残りの二人にそう言ったら、つれない返事が返って来た。後アヤネの顔が完全にジト目になった。ま、私が大好きなシエラや完全に私に懐いているフレアほど二人との関係は築けてないからねぇ。
ともあれ。
そんな風にイチャイチャしたり他愛ない雑談をしながら街道を進んでいるとき、ふとフレアが赤毛の聖女とはどういう知り合いなのかと口にした。
確かにね、人族と敵対していないとはいえ魔王の一角と対魔族の最先鋒といえるパノス聖王国の赤毛の聖女がどうして知人なのかって思うわよね。
目的地まではそれなりに時間がかかることだし、まぁ話してあげるとしましょうか。隠す事でもないしね。
◆◇
始まりは、ゼノビアと呼ばれる地方で起きた大地震だったわ。
ゼノビア自体はウチの領土よりは大分離れてる地域。パノス聖王国の最寄りというわけでもないけど、相対的な距離で見れば聖王国の方が近い、そんな位置。
地震大国と呼ばれる私の生まれ故郷程ではないけど、この世界でもそれなりに地震が起こる。だがゼノビア地方は過去に大きな地震が起きたことはなかったため、地震対策などはあまりとられておらず、結構な規模の被害が出たらしい。
ただ、それ自体は話には関係ない。
この時点では私はまだゼノビアにいなかったし。ついでにいうと、アーシェもいなかったって聞いてる。ただ近隣にはいたようで、回復の術を得意とする彼女が救援活動のためゼノビアに向かったみたい。
同時に私もこの情報を聞いた時に、ゼノビアに向かう事に決めた。勿論救助活動──なんてつもりは毛頭ない。
私が向かったのは、神代種族の生き残りにある事を聞いていたから。
基本人間を遥かに超える強靭な体を持つものが多い神代種族だけど、中には人間のように技術で戦う存在もいた。
神が滅んだあと、他の神代種族に比べて耐性も低かったためその種族は早々に滅んだらしいんだけど。彼らが作った道具のいくつかはそのまま残ったらしい。それらは彼らの本拠であった地底都市や要塞等の施設に存在しているらしく、そういったものは近代で人間に発見されて"神具"として取り扱われている。
これがピンキリではあるんだけど、面倒な性能を持つものがあってね。その中の一つで魔王が狩られたこともあるくらいに厄介な品物。だから魔族の領域で発見された場合は早々に破壊なり封印をしている。自分達で扱えばいいのにって思ったけど、どうも"神具"は私達魔族とは相性が悪いらしくて上手く効果を発揮しない場合が多いらしい。
うん、ここまで語ればわかるよね?
その神代種族の本拠は地下にあった。そしてこういった大きな地震によって隠されたり埋もれていた地下の施設が発見されるなんてのはよくある話。
当時すでに放浪を始めていて、なおかつしばらく前のように人間のパーティーに所属しているなんてこともなかった私は、そこにあくまで聞く限りだけどわりとヤバいものが眠っているというのを聞いていたため、念のため向かう事にしたんだ。勿論破壊する為にね。




