魔王様と情報分析①
「……やっぱりおかしいわよね、これ」
結局5日間程はだらだらフレアや役目を終えて戻ってきたシエラとイチャイチャして過ごした。いやユキはアヤネも一緒だけど、ユキは基本フレアが優先でまだ私とは距離感があるし、アヤネはこちらを慕ってくれている気配はあるけどあくまで敬愛でそういった空気にはならないし。
そういう意味ではフレアもどちらかというと飼い主に懐いている小動物みたいな感じでしかないんだけど。
まぁそんな感じで過ごしていた5日目に届いた。この街の情報屋に依頼していた情報だ。数枚の書面にまとめられたそれは、依頼していた通り宿屋の方に届けられた。
先程の私の言葉は、その資料に何回か目を通してからのものだ。
わずか5日、しかも対象は別の街にいるというのに、その資料には想定より多めの情報が記載されていた。対象の素性やここ最近の行動履歴、酒場とかでの会話内容までがまとめられている。さすが、この街一番の情報屋集団だ、お値段が高い代わりに仕事は実にしっかりしている。
「何がおかしいのでしょうか?」
シエラがそう聞いてきたので、私は手に持っていた資料を彼女に渡す。
資料を受け取ったシエラはざっと資料に目を通し、そして──眉を顰めた。
「なるほど。これは確かにおかしいですね」
「どうゆう事だ?」
シエラが発した言葉に、アヤネが首を傾げて問いかける。
ちなみにこの場にはアヤネだけではなく、フレアやユキもいる。こないだみたいに寝ちゃった時はともかく、こういった話の蚊帳の外にするとフレアがすねるのよね。まぁそのすねている姿も可愛いんだけど。話の内容的には聞かれて困るようなものでもないしね。
私はシエラと顔を合せてから、アヤネの問いに答える事にする。
「うんまぁ調査結果なんだけどさ、ウチの領土を攻めるつもりなんだったら明らかにおかしい行動取ってるのよね?」
「というと、どういうことだ?」
「まず第一に、現在地。私が不在を狙うならとっとと領地の方に突撃するか、少なくともここみたいに領地に隣接した街へ移動してるべきでしょう。なのにまだ連中は少し手前の街に滞在している」
指を一つ立てながらそう答え、それから続けて2本目の指を立てる。
「二つ目が、動きの少なさ。見た感じここ最近で街の間を移動したのは一つだけ。しかもその移動はウチの領土方面ではなく、ハイドランジアの王都方面に近づく形になってる。移動的には横移動でウチの領土との距離が縮まっていない」
これはもしウチの領土を目指すなら意味不明な動きだ。別の目的があるとしか思えない。
私は3本目の指を立てる。
「三つ目。調査結果を見る限りは彼ら以外にこの近郊にパノス聖王国の聖騎士階級の人間はいない。ということは、味方の合流を待っているというわけでもない」
実際はアーシェがいるわけだが、彼らの存在を私に伝えて来た彼女が彼らと合流する理由はないだろう。そして私は4本目の指を立てる。これが最後の理由──そして一番おかしな理由となる。
「四つ目。連中はこっちの領土に関して偵察を出す事も、情報収集もしていない。……明らかにこっちの領域襲撃をする気がないでしょ、こいつら」
動かない理由としては、情報が集まるのを待っているという可能性はあるのだ。だが連中はうちの領域に偵察の人間を出すのはおろか、情報収集をしている気配がない。一応連絡員のようなものが一度接触しているという情報はあったが、これはパノス聖王国本国からの連絡員からで、調べた限りはやはり魔王領に関して情報収集をしている気配はやっぱりない。これは明らかにおかしいだろう。アーシェから聞いた情報の通り彼らが私の領土を襲撃しようとしているとした場合、彼らは動くこともせず戦力も増強せず情報すら集めない無為な時間を過ごしていることになる。……情報を集めないのであればむしろまっすぐ突っ込んできているべきだ。
「……襲撃する気がないのは間違いないですね。だとすると彼らの目的が見えませんが……」
「ある地点から動いてないのであれば、そこで何か事を起こす事をかんがえているんじゃないか?」
シエラが上げた疑問の言葉に、アヤネがそう言葉を返す。うん、もちろんその可能性もあるけど……彼らがいる地点は何の変哲もない街で、特に何かありそうな場所ではないのよね。私達がしらない何かがある可能性もあるけど……だとしたら、そこは人の領域だ。私がわざわざ関与する話でもない。
ようするにこの情報を見る限りは私達は動く必要のない可能性が高いんだけど……一つの可能性が思い浮かぶのよね。




