魔王様は大都市の門をくぐる
今回のような大きな街に来ることを決断したのは、フレアの成長もあるがそれ以上にユキの成長が大きい。
大きな街だと当然通りの人口密度も大きいし、何よりこの規模だと実力のある魔術士はそれなりにいるだろう。そんな連中がユキの魔力無効化の範囲内に入ったら間違いなく感づくからね。
それで単純にスルーしてくれればいいんだけど、下手に興味を持たれたりされたら面倒だ。スカウトなどに来られた場合は非常に厄介な事になる。しかもそういった連中だと私やシエラの事を知っている可能性があるからなぁ。髪色変えているし瞳も魔族特有の色は消しているから大丈夫だとは思うけど。
ただその懸念事項だけど、ユキの成長のおかげでほぼ気にしなくて良くなった。
彼女の成長は著しく、ほぼ完ぺきに力を操れるようになっている。魔力の無効化をほぼフレアの全身を覆う程度に展開できるようになっているし、離れてしまっても即座にそちら方面だけに力を拡張できるようになっていた。ここらあたり、いろいろ覚える事が多いフレアと違いユキは魔力無効化に専念して鍛える事が出来たのが多いと思う。
ちなみにまだ訓練は続けるが、とりあえず実用レベルとしては問題はなくなってきたので当人は体を鍛え始めるといっていた。まぁユキの能力は強力ではあるんだけど、肉弾戦相手には何の役にも立たないからね。
当然私はユキを前線に立たせるつもりはないけど、少しでも動けるようになるのは悪い事じゃない。ちょうどいい事に体術に関してはちょうどいい先生がいる事だし。
で、そんなユキの成長を持って私たちは自分の支配下地域から最も最寄りの大都市──セルドランへとやってきたわけである。
「おおー! すごいですわ! ものすごく人がいっぱいですわ! まるで人が」
「フレア様、落ち着いて!」
……予想通りではあったけれど、街の門を潜ったらすぐにフレアがいきなりテンションダダ上がりになった。思わず駆け出していきそうになるのをユキが腕を掴んで止めている。
「ふふ、フレア。そんな焦らないで大丈夫よ。今回この街にはしばらく滞在するから、見て回る時間はいくらでもあるわ。まずは宿屋を探しましょう、荷物も置きたいしね」
「! わかりましたわ、お姉様」
うん、相変わらずフレアは素直で大変よろしい。
「あ、アヤネ。フレア達が妙なのに絡まれないように気を付けてやってね」
「承知した」
旅の仲間に旅慣れて対人のあしらいもそれなりに慣れているアヤネが入ったのは助かるわね。これまでは私かシエラが常に見張っていなければならなかったし。これで何かあった時も動きやすい。
ま、何もない事が一番だけど。
「私もこういう大きい街は久しぶりだからねぇ。久々に観光したいところところだわ。ね、シエラ?」
わりと近くにある場所っていつでもいけると思って逆に全然見て回った事がないって、わりとあると思
わない?
「……人間のパーティーにいた時に、そういった事はしなかったんですか?」
「あの時はとにかく鍛える事しか考えてなかったからねぇ。クエスト、クエスト、クエストでそんな事をしようなんて欠片も考えなかったわ」
「……少しだけ、あの者達に対して同情を感じました」
あ、シエラに呆れた顔された。今考えると、そりゃ追放されるわぁって感じよね。
「ふふ」
小さくため息を吐くシエラの腕を取る。ちょうどフレアと腕を組んでいる(フレアが先走らないようにするためだけど)ユキのように。
「リン様?」
「──最近は皆で移動が大部分だったからね。フレア達はアヤネにひとまず任せて、久々に観光デートしようかしら? 二人っきりで」
「み、皆を放ってそういうわけにも」
「あら、したくないの?」
「…………………………………………………………………………したいです」
ああ、もうシエラは可愛いわね! 勿論他の子も可愛いけどね!




