魔王様はちょっとだけ変装する
改めて言うが、私はこの世界ではそこそこ有名人ではある。何せ魔王なので。
ただ魔族サイドはともかく、人間サイド側では派手な活動はしていないので人の間ではそれほど顔が知られていない。名前は知られてはいるが、リンなんて名前人の中でもいくらでもある名前だから、それで気づかれる事もない。
なので辺境地域を移動している分には面倒なので、そのままの姿で活動していたわけだが。今向かっている私の本拠に向かう為にはずっと辺境を移動しているわけにもいかない。
人が多く、更に私の支配下地域に近い所になってくるとなると、私の姿を見て正体に気づく人間が出てくるかもしれない。別段人間と敵対はしてないし、大概の人間は自分達に害をなさない……というか力が全ての魔族達が無法を働かないように支配下に置いている魔王に無駄に突っかかろうとはしない。
だが、そうはいっても無用なトラブルは生じるだろうし、人間の中の一部はこっちが魔族だというだけで襲っていいと思っているアレな輩が存在している。まぁそんな奴らに襲われたところで大抵の場合は簡単にボコる事ができるけど、面倒毎は出来るだけ避けたい。現状まだ非戦闘員の子もいるしね。
というわけで、変装である。
「まぁお姉さま! 黒髪も良くお似合いですわ!」
「ふふ、ありがとう」
ま、変装といっても髪を染めただけだけど。これでも充分だからね。
髪の色ってのは人体の中でも印象に残るパーツだ。知人や私に執着を持っている相手ならまだしも、ちょっと顔を知っている程度の相手ならそれの色を変えるだけで私と認識できなくなる。もう一つの特徴である赤い瞳はウチの技術担当のヘイゼルの道具で普通に隠せているしね。
ちなみに私に合わせてシエラも髪を染めた。彼女は艶やかな黒髪を今はブルネットに染めている。
洗髪作業は私はシエラが、シエラに関してはユキが行ってくれた。
これで早々気づかれる事はないだろう。女性5人グループなのでそこがちょっと目立ってしまうが、逆にいえば私達のような美女・美少女軍団を見て魔王様御一行とか普通には思わないだろうし。
喋り方や外見からしてもフレアは令嬢感を醸し出しているし、お忍びの侍女二人に現地で雇われた護衛二人(私とアヤネ)くらいに思われるんじゃないかしらね? さすがに考えが甘い?
ま、アヤネが加入してくれたおかげで最悪私シエラが絡まれてもフレア達は別行動できるようになったしね。
フレアとユキの能力制御も完璧ではないにしろ大分様になって来たし。フレアに関して言えば、簡単な術の勉強も始まった。
そろそろ、頃合いでしょ。
「お姉さま! これから向かう場所はものぉぉぉぉぉぉぉすごく人がいっぱいいるのですよね!」
まだ街までは大分遠いというのに、すでにフレアは興奮状態だ。こんなだと、街に着くころにはお眠なのではないかしら?
これから私達は、とある国の大都市に向かう。王都、ではないのだけれど小国の王都には匹敵、或いはそれを超える規模を持つ現在滞在している王国の第二の都市。歴史のある都市でもあり、風光明媚な場所だ。
こないだ、ご褒美上げるっていったしねぇ。
本拠に戻るには通る必要のない都市ではないんだけど、帰路として定めたルートからは大きくそれる事はない。そしてこの都市を超えると、観光とかに向くこれ以上の大都市は見当たらない。うちの本拠の方は開発は進めてるし発展は初めているとはいえ元が元だったからまだまだ田舎だ。
一度本拠に戻ったらしばらくはそっちに滞在するだろうし、大きい都市に寄れるのはここが最後になるだろうからねぇ。というわけで、いく事決定である。……まぁ魔族の支配地域に近い大都市だとアイツらが滞在している可能性があるからシエラは眉を顰めていたけど……
もし滞在していたとしても数万人規模の街の中で早々鉢合わせないだろうし、トラブルとか起こさない限りなんとかなるって!
まぁフレアが興奮しすぎて逸れたり力暴走させたりだけはしないように気を付けないとかな。




