魔王様はなんやかんやで魔王になった②
それから大体三日間ほどくらい私は彼女と行動を共にすることになったんだけど、アージェはまさに女神だった。
美味しいご飯を食べさせてくれるのは勿論の事、私の姿を見て自分の予備の服と靴も提供してくれた。更には無知な私にいろいろな事を教えてくれたのも彼女だ。森の中で食べれるものから近隣の地図や状況、それに私が当時無意識に発動していた能力についてまで。
私はこの世界では魔族と呼ばれる存在で、その魔族として持つ能力の中に魅了の力があったらしく、私は当時それを垂れ流し状態にしていたらしい。実際それ以降能力を抑えることを意識したら、襲われる事は全くなくなった。ようするにそれまでに襲ってきた連中は魅了の力の影響で無理やり襲わされたあげく肉片にされたわけで……皆ゴメンネ、成仏してね……
またこれ以外にもいろいろ彼女が教えてくれたのと、精神的余裕ができたせいで自分の能力をいろいろ理解することができた。
この世界での私の能力は大きく分けて3つ。
1つ目はそれまでに使ってきた魔力をそのまま放出して力として行使する力。これは強弱の違いはあれど魔族なら誰でも持っている能力だ。
2つ目は血に関する能力で、これが私の固有能力だということだった。魅力の力も私がその血に持たせた能力らしい。
そして3つ目、これは当時アージェには伝えなかったんだけど変身能力。これが神様のくれた能力だと思うんだけど、この時はストックに元の体しかないからほぼ意味がない能力だった。正直制約が大きいし、これを有効活用できるようになったのは大分経ってからだった気がする。
まぁそんな感じで私はアージェのお陰でいろいろ知る事が出来た。そんな彼女に私はずっとついていきたかったんだけど、残念ながら彼女はこれから危険な地帯へ向かうということで(わざわざ遠回りになるのに私を最寄りの集落まで送ってくれた上で)別れることになった。
そしてこの時に私が訪れた集落が、この世界での第二の救世主となった。
その村はお世辞にも豊かとはいえず、住人の姿もわりとバラバラな亜人の村と言った場所だったが、彼らは私を暖かく受け入れてくれた。粗末とはいえ、暖かい食事と寝床。それはとても固くお世辞にも上等とはいえないベッドだったが、この世界に来て初めての屋内でのちゃんとした睡眠にこの日は枕を濡らしたことを覚えている。
更に彼らは行く当てがない私にちゃんと働くなら暫くいてくれてもいいぞとまで言ってくれた。
この時点で私は戦闘能力が高めなのは理解していたので、狩りをすることを条件に私はその村に滞在することになった。
アージェによって命を救われ、村の皆によって仮初の宿は得た。私はこの時になってようやく自分はこの世界の住人になれたと感じていた。村での生活は穏やかで、もう私はここでずっと暮らしていけばいいんじゃないかと思ったくらいだ。
だが、平穏は破られる。
ある日村に略奪者がやって来た。彼らは村の倉庫や家々に勝手に入り込み食料を奪い取ったり娘に手を出そうとした。
なのでぶちのめした。割と雑魚だった。
ただその後、村長たちがひどく慌てた。
それはこの世界のルールにある。
この世界は今大きく分けて現在実質二つの種族が支配している。
一つは遠い昔滅んだ神の内アルストラと呼ばれる神の力を引き継いで生まれた人族。
一つは同様に滅んだ神の内ネストと呼ばれる神の力を引き継いで生まれた魔族。
これらの二種族は交流はあるものの文明圏は分かれており、それぞれが異なる法の元に暮らしている。
人族に関しては私の知っている元の世界と似た感じの法が支配している。人類全体に掛かる法があり、そこから更に各国家によって法は制定されている。
それに対して魔族は酷く単純だった。
すなわち、力が法。
ただこれは別に何事も力で解決できるというわけではない。
その支配域の中で最も力があるものが魔王と呼ばれ、その者が定める事がその場所の法になる。
そしてこの村を含む地帯を支配する魔王は、自分の部下達の無法行為を全て法として認めていた。ようするに私が行ったことは法律違反で、制裁を受ける──そう村人たちは心配したのだ。
実際、数日後に前回より数倍の集団が村にやってきた。
全員ぶちのめした。弱かった。
そしたら更に数日後、今後はもう少し偉そうな連中が来た。
ぶちのめした。泣いて謝罪された。
そしてこの辺りで私は気づく。あれ、この程度の実力の部下しかいないなら魔王もぶちのめせるんじゃね?
なのでそうすることにした。私は魔王の居城へと単身突っ込んだ。
結論からいうと、さすがにこの考えは甘かった。
魔王は普通に強かった。この世界で戦った敵は殆ど一撃だったけど、何発ぶち込んでもなかなか倒れなかった。
でも、私の方が強かった。当時の魔王は長い戦いの後、最後は私に頭を吹っ飛ばされて無惨な死体となった。
──そうして、私はこの世界に来てから一ヶ月と経たない内に魔王の一人となったのだ。
あ、ちなみに私を救ってくれた女神様であるアージェは、今はウチの領土の隣で魔王をやっています。再会もできて今では一番大事な親友です。