魔王様と空飛ぶマグロ⑤
死体を操る為死霊の王などと呼ばれているが、奴の能力はそんな大層なものはない。
奴の実際の力は、虫使いだ。
死体に自らの操る虫を寄生させ、自分の指示に従って動かす。
具体的な仕組みはわかっていないが、儂としては恐らく脳に虫を埋め込み、そこから発信する信号によってその肉体を操ってるのではないかと思っている。尤も100%ではないにしろ死体が生前保持していた能力は使えるようだし、割と細かい指示もできるようだからもっとファンタジー的な何かなのかもしれない。
しかしまぁ、神代種族の死体まで操れるのか。これはちょっと厄介だな。
カルガルカン自体は現存魔王の中で最弱の魔王と呼ばれている。奴単体ではたいした戦闘力を持たないとされているからだ。それを奴自身も自覚しているのだろう、カルガルカンは他の魔王の勢力の前はおろか、自分の部下たちの前ですら殆ど姿を現さないと聞く。己の部下と、操った死体を用いて行動し、当人はどこか地下深くにずっと潜んでいる、"臆病者"と呼ばれる魔王だ。
そして奴の操る死体に関しても、前述の通り生前の力が100%発揮されるわけではないので、中堅や下位の実力の魔族ならともかくとしても上位の魔族──特に私達魔王やその側近クラスの実力者に対しては脅威となりえない……だから包み隠さず言えば、他の魔王たちからは"あまり相手にされていない"魔王だったのだけれど。
ちなみに"死体を操る"という能力は我々魔族より人族の方が嫌悪しているため、人間には結構警戒されている。少なくとも人畜無害な儂なんかよりもずっと。
だから儂の「人間達に魔王討伐してもらう計画(仮)」の討伐対象に考えてたんだがねぇ……。
神代種族を操れるとなると、さすがに計画の準備が整うまで完全に放置ってわけにはいかないかもしれない。なにせ神代種族は何よりどの種族も我々魔族や人族に比べてはるかに強靭な肉体を持つ。能力を100%扱えないといってもその強靭な肉体だけで、大抵の存在には充分脅威になりうるだろう。
まぁそもそもやたら長い寿命を持つ神代種族の死体なんてめったな事では入手できないだろうから、そこまで気にすることではないのかもしれないが……一応今後はある程度情報収集をするなどして警戒した方がいいかもしれないな。
そもそもどこぞの陰険魔王──幻惑の王はこの情報も捉えてたんじゃないかとは思うが。
ともかく、だ。この虫がいたことで奴が犯人なのは確定だ。あのストピーダーの頭の中には虫が埋め込まれており、それによって遺体を操っているハズだ。先ほど飛んできた虫は恐らくはカルガルカンの命令を中継するための端末、体の方に残っていた奴は部下が裏切った時に処分をするための物だろう。
ようするに先ほど儂に問われた時点で、奴が死ぬという運命は確定していたわけだ。自分の部下にまでそんなものを仕込むとは、まさに臆病者の魔王である。儂だったら間違ってもシエラやオルバンにそんなものは仕込めない。
この端末を破壊したからには、これ以上ストピーダーに対して指示は送れないハズ。新たな端末を用意すればまた出来るのだろうか、そうすぐには無理だろう。それまでは直前にコマンドされた動きを繰り返すはずだ。ならば後はその進行方向を予測し、迎え撃てばいい。広域の魔力感知をしても他の魔力を持つ存在は見当たらず、もう邪魔が入る可能性はない。
「後は、上手くこっちのいる場所の側を通ってくれるといいんだがな」
一応奴としても当面この人の気配のない場所から外に出す気はなかったと思うので、恐らくは同じ場所をぐるぐる回るような動きをするハズだが……もし外れるようならリンに戻って殴りつけでもして軌道修正をしてやらないといけない。出来ればやりたくない──着替えなおすのが面倒なので。
最終的にアヤネの仇討ちを手伝う時にまたこの姿に戻るから、出来ればこのままでいたい所だが……とにかく、まずはストピーダーの動きを追跡するとするか。




