魔王様は挑まれる⑨
「……何でしょうか?」
呼ばれたアヤネは素直にこちらに近寄ってくる。ただ、その体には少しだけ力が入っているのが見て取れた。攻撃体勢のそれではないので、恐らく警戒をしているだけだろう。
大丈夫よー、リンちゃん自分でいいっていったことをされて怒るほど狭量じゃないからねー。というか今の私の機嫌は悪いどころか、滅茶苦茶上機嫌だ。
だって、いくらこちら側からは攻撃をしない条件だったとはいえ、魔王の一角たる私の防御をぶち抜いた相手だよ? 私の防御を抜いてダメージを与える事が出来る存在なんて、数えるられる程度しかいない。そんな力を持った娘が自分からこうやって寄ってきてくれたのって、ラッキーすぎない?
目を付けてたパーティーから追放されて、失意のままに本拠へ返るところだった。だけどその道中でめちゃくちゃレアな能力を持つ女の子を、すでに三人も発見してしまった。ガチャで最高位レアを三連続で引いた気分だ。最近の私は引きが良すぎて怖い。トラックにでも跳ねられるのではないだろうか? 尤もこの世界にはトラックはないから馬車か? そもそも馬車にはねられたくらいじゃダメージ受けないけど。
……あれ、これストピーダーに撥ねられるフラグでは? あれに撥ねられたらさすがの私でも痛いぞ? 死にはしないと思うけど。
それにしても、結果として私を追放してくれたパーティの皆には感謝だな。あのまま彼らと行動していたらフレアやユキには会わなかっただろうし、姿を変えていたからアヤネも私に接触してこなかっただろう。今度感謝を込めてなにかしら支援しておこう。私からの支援だと気付いたら彼ら真っ青になりそうだけど。
とにかく。アヤネは間違いなく逸材だ。なので──ここでリリースするわけにはいかないよね?
「アヤネ。貴女はストピーダーを倒しに行くのよね?」
私の問いに彼女は頷く。
「リン様のおかげで、私の攻撃は通るのが分かりました。であれば、後は全力で叩きこむのみ」
あ、さっきの攻撃は全力じゃなかったんだ。まぁそりゃそっか。
「その目的地は、ここから近いのかしら?」
この発言をした瞬間、シエラがやっぱりという顔をした。そんなシエラに御免ねと思いつつ、こちらは私の意図がわからないらしいアヤネが、きょとんとしながらも目的地の場所を教えてくれる。
うん、位置的には悪くない。大周りにはなるが、方角的には我々の進行方向と一緒だ。そしてここからもそう遠い距離ではない(といっても何日もかかる距離ではある。だけど何か月とか、そういうレベルではない)。
よし。ならこれ以上考える必要はないわね。
「それじゃ私達もそこに同行するわね?」
「へ?」
あ、アヤネがきょとんとした。こういう表情すると幼い感じがでるわね、この子。可愛いわ。
「ど、どうしてですか?」
「だって、貴女一人じゃいくらなんでも無理でしょう」
私がそう言い切ると、アヤネは言葉に詰まった。
攻撃は確かに通るかもしれない、があくまでこの攻撃は近接技だ。そしてストピーダーは高速で飛行する種族だ、例え攻撃を叩き込めても次の瞬間には弾き飛ばされてアヤネの命もジ・エンドだろう。
恐らく彼女は命を代償としてその一撃を叩き込むつもりだろうが……そんなもったいない事をさせるわけにもいかない。
だから、
「手を貸してあげるわ、アヤネ」
「でっ、ですが」
「安心して、ちゃんと貴女に仇は取らせてあげるわ。ただ取りやすいように、私が足を止めてあげる」
オルバンの能力を合わせて使えば足止めも可能だろう。
アヤネは私の言葉に、目を見開いてこちらを見上げてくる。私の言葉が素直に頭の中に入ってこないんでしょうね? なにせ魔王が特に縁もゆかりもない自分に力を貸すというのだから。
ま、私としてはメリットあるから手を貸すんだけどね? そこは事が済んでから話すつもりだけど。
──あと、それとは別に、ちょっとこの件に関しては気になるところがある。それを確かめたいし、場合によっては対処したいって理由がある。これに関してはシエラだけに伝えたら彼女も納得してくれた。
「で、どうする?」
彼女が、意地でも力を借りずに自分の力だけでなんとかしたいという頭のかったい子だったら私も無理には押し付けないけど。
そう考えている私に対して、彼女は頷き大きく頭を下げた。




