魔王様は挑まれる⑧
「お姉さま……」
私が地面に沈んだすぐ後に駆け寄ってきて、フレアが心配そうな声をだしつつ背中をさすってくれる。それに合わせてユキとシエラもやって来た気配があった。アヤネは……私の前で動いていないが、高まっていた魔力は霧散していた。戦闘態勢を解除したのだろう。
そして私は……蹲ったまま考えていた。ゲ〇吐いたまま蹲っているとか絵面的に美女はやっていけない行動だけど、この時私はある事に思考がとらわれていたのだ。
すなわち、今自分が何をされたのかということを。
張った防御は完璧だった。そしてそれを高威力でぶち抜かれたような気配は全くない。そもそも私は傷を負っていないのだ。
となると衝撃を内部に浸透させた? いや、魔力による障壁はそういった衝撃ですら緩和する。それこそ強力な力を叩きつけでもしない限り、内部に衝撃が響くことはない。
──という事はだ、障壁も、そして皮膚も無視して、アヤネは私の体の中に直接力を叩きつけたという事だ。
聞いた事ない、そんなモノ。
人が使う魔術や、我々魔族が使う能力の中には、当然遠隔で発動する魔術もある。が、それは効果が遠隔で発生するだけであり、そこに突如魔力が産まれるわけではない。あくまで魔力を飛ばしたり伸ばしたりして発動するだけだ。
だが今のアヤネの攻撃はその類のものではない、ハズだ。
私が張ったいわば結界、それは魔力をすべて遮断するハズ。ようするにアヤネはなんらかの方法で結界を無視する攻撃をしたということだ。
考えられる方法は、3つほど浮かぶ。
一つは魔力を設置しておき、時限で発動させる方法。結界を発動しても、最初からその中に設置がされていれば意味がないということだ。
だが、恐らくこれは違う。あの高速の動きの中設置技を当てるのは困難なんてものではないし、何より障壁はともかく私は常に体には魔力で強化を入れている。その魔力が他の魔力を弾くはずなので、体の内部で効果が発動している以上、これではない。
二つ目は、彼女の使った力が相手の防御を無効化させるなどのなにからしらの特性を持っている可能性。ただこの攻撃だったら、普通に私の皮膚にも影響は出ているハズだ。
であれば考えられるのは三つ目。彼女が魔力を直接私の体内に出現させたということ。
そんな能力や技術の持ち主は聞いたことがない。だけど私は、この世界のすべてを知っているわけではない。いろいろ無茶苦茶な能力を持つ存在──なんなら見ただけで相手を崩壊させたり、近づく存在を実体エネルギー問わずすべてえぐるようなのがいる世界だ、そういった存在がいたって何らおかしくない。
「うふ……うふうふふふふ」
「……お姉さま?」
考えている間に気持ち悪いのは収まってきた。同時に自然と口から笑いが漏れてしまう。
だってそうでしょう? とんでもない逸材が自分から飛び込んできてくれたのだから!
私が体を起こすと、シエラが即座によってきてハンカチで私の口元を拭ってくれた。
私はそれに対してされるままになりつつも、その場からちょっと離れる。うん、私の吐しゃ物があるからね、ばっちぃからね。自分が出したものだけど。
「リン様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫大丈夫」
心配そうに顔を覗き込んでくる同行者三人に笑顔を返しておく。
実際ダメージはないのだ、体の内部を揺らされたせいでめっちゃ不快感は感じていたけど、それも収まった。そして強化している臓器には直接的なダメージはない。
撃ち込まれた場所によってはもうちょいダメージを受けたかもしれないけど、少なくとも今の私は……うん、ほぼ残るようなダメージはない。
と、なればだ。
私の顔にがっつり笑みが浮かんでいくのが分かる。それを見たシエラが何かを察して眉を顰めて嘆息した。ユキとフレアは私が突然笑い出したのをきょとんとしている。
そん二人を後目に、私は先ほど私を打撃した後の位置から動いてないアヤネを手招きした。
「アヤネ、話があるわ!」




