魔王様は挑まれる⑥
「リン様が受けるくらいなら私が」
「いやいや、単純な防御力で言ったら私が全然上だからね? 目的考えれば私が相応しいでしょ」
ぶっちゃけた話、戦闘技術で言えば私よりシエラの方が上。なのに私の方が強い理由は変身能力もあるが、それ以前に単純に魔力の強さだ。ウチに今いる実力者は、概ね力の強さによるごり押しで倒している。
魔族にとって魔力の高さや練度はそのまま防御力も直結するので、固さを基準で選ぶなら私一択である。
それに圧倒できる敵相手ならともかく、最初から殴られる事を目的とすることを可愛い女の子であるシエラに任せるのはさすがに男が廃ると思うのよね、元だけど。
「ですが……」
「大丈夫だって」
後、自分で受けてみたいと思う気持ちもある。いや、殴られる事が好きなどMっていうわけじゃなくて、目の前の今の所大した魔力を感じさせない少女がどういった方法で私に攻撃を通すのか興味があるのだ。
ストピーダーの外皮はとても固い。生半可な攻撃では傷つける事すらできないだろう。ウチの面子のなかでも相手をして戦えるのは私を含めて極わずかだけだ。そんな相手を、先ほどの口ぶりから直接見たはずの彼女が、確信はないものの通用する可能性があると考えている攻撃を見てみたい。
私は尚も不満そうにしているシエラを下がらせると、少女に向き直る。
「というわけであなたの望みをかなえてあげるわ」
「本当か……ですか!」
少女が瞳を輝かせる。可愛いわね。こんな可愛い子がそんな攻撃できるのかって気にもなるけど、それ言ったら私も外見上はただの美人さんだしね。
「ところで貴女の名前は?」
「アヤネ、です」
アヤネ……日本人ぽい名前ね。感じあてはめたら彩音か綾音かしら。ま、それはおいといて。
「相手はしてあげるけど、その前にいくつか確認させてもらっていいかしら?」
「はい」
「まず最初に、貴女が今から行おうとしている攻撃だけど、周囲に影響がでるようなものかしら?」
「いえ、対象以外には一切の影響はでません」
「オーケー。シエラ、少し離れた上でフレア達呼んで一緒にいなさいな」
私の言いつけを護って元の位置に座ったままこちらを見ているフレア達を視線で示すと、シエラはちょっと不満そうな様子を見せつつも下がった。
アヤネの言いぶりだと問題はなそうだけど、一応念のためにシエラを側においておけば万が一もないでしょ。
「それから次ね。私はただ立っているだけでいいのかしら? それとも戦ったらいい?」
「魔王様と正面きって戦ったら勝負になりませんので攻撃はしないで頂けると……ただストピーダーも動きが早い生物ですし、回避行動はしてください」
棒立ちの相手に決めるだけじゃ意味がないって事ね。
「わかったわ。後は……特にないわね。それじゃ少し距離を取ってから始めましょうか」
私たちはお互い後方に下がってから向き直る。
少女は少しだけ腰を落とした。戦闘態勢に移行したのかしら。それに対して私はそのままだ、別に大した体術は使えないしね。
「──さぁ、始めましょうか」
私の始めたその言葉が合図になった。
その瞬間、アヤネが跳ねた。上ではなく、前方にだ。
駆けだしたという表現は相応しくない、まさしく跳ねたという表現が適切だろう。それだけの勢いで彼女は動いた。
予想はしていたけど、やっぱり身体強化型よね!
これまで殆ど魔力を感じなかった彼女の体に、今は先ほどとは比べものにならない魔力が通っている。特に下半身に強く通っているのは速度強化のためだろう。
私の体術は大したことない。彼女は明らかに近接型だ、体裁きでは私は相手にもならないだろう。なので魔力によって爆発的に強化されている身体能力にモノを言わせて体を動かし"逃げ"に回る。
──この体で逃げるってのも新鮮な体験ね!




