魔王様は挑まれる⑤
神代種族。
その呼び名の通り、神の生きていた時代から生きているとされる種族の総称だ。
代表的な存在としては、背中に翼をもつ巨大なトカゲ──ドラゴンがあげられるが、それ以外にいくつかの種族が存在している。
そんな連中が彼女の故郷を襲っているというのか。だが、
「……それは本当に神代種族なのでしょうか。酷似した別の種族なのでは?」
私が疑問を言葉にする前に、シエラの方が先に口を開いた。私も全く同じ気持ちだ。
神代種族とは前述の通り単一の種族名ではなく複数の種族の呼び名もあるが、神の時代から存在していることの他にも類似点がある。
一つは、例外なく強靭な肉体を持つこと。元々神代種族は神の尖兵として生み出されたという話だし、当然だろう。
そして、とてつもない長い寿命を持つ。それと同時に──出生率が異常に低いのだ。
そのため、今現存している神代種族の大部分は神の時代から生きているとされている。さすがに長すぎてそこらへんは眉唾なのでは? という気もするけど(昔の事すぎて話聞いても神の時代の事は殆ど覚えていないって話だし)、彼らが長い長い時間を生きていること自体は事実だ。
そんな彼らが、今更人里をわざわざ襲うとは考えづらい。なぜなら、そういった事を行おうとする個体はとうの昔に討伐されているからだ。今生き残っている神代種族は大抵が静かにひっそりと暮らしているだけの個体である。こちらから牙をむかない限りは、何かをしてくることはまずない。
出生率が極端に低いからといって一切新しい個体が産まれないわけではないから、最近産まれた個体が暴れ回ってる可能性も否定はできないけど……
神代種族の中には黒の魔狼のように類似した姿を持つ別種族が存在する物もいる。神代種族の実物を見た事ある人間なんてほとんどいないから、見間違えたとしてもおかしくない。そう思ったんだけど、
「いえ、あれは間違いなく神代種族です」
少女はきっぱりとそれを否定した。
「どうして、そこまで断言できるの。その神代種族っていったい何? ドラゴン?」
「ストピーダー、です」
「……あいつらかぁ!」
それなら確かに見間違えたという事はないだろう、
神代種族ストピーダー。その姿は──空飛ぶ巨大なマグロである。
そんな種族はこの世界にストピーダーしか存在していない。サイズがバカでかいから見間違えもありえないものだろう。目的が何かは不明だが、ストピーダーが暴れ回ってるのは間違いない。
「でも、いくら神代種族とは言え、人里を襲っているならやはりパノス聖王国は動くのでは?」
続けて放たれたシエラの疑問もやはり少女は即座に否定した。
「私の住んでいた村はいわば辺境の隠れ里であり……周辺に他の集落はないのです。更に集落は襲われた時にはすでに住人自体は存在していませんでした。我々集落の出身者であった者が再び村に戻った時、ちょうどそのタイミングでアイツが現れたのです」
そこで少女は一度言葉を止めて……何かを思い出したのか顔を少し青くしながら、言った。
「なので、犠牲者は極少数です。ですから」
「成程。それならパノス聖王国はまず動かないわね」
魔族絶対ぶっ殺すマンの集まっている聖王国だけど、神世を知る存在である神代種族には敬意を払っている。多数の人間が危険に晒されない限り動く事はないだろう。それに神代種族を討伐するとなると聖王国側も被害が出る事を覚悟しないといけないからね、犠牲者が数人程度、しかもその場所が辺境であれば動くことはまずない。
これで彼女が自ら仇を討とうとしている理由はわかった。そして、ここまで理解して動いている彼女が神代種族がどのような存在か理解していないとは思えない。というか、恐らく彼女はその脅威を目の前で見たのではなかろうか。先ほどの青い顔を思い出して、そう思う。
その上で彼女は、あれに通る可能性がある手段を持ち、それの試しにまさかの魔王を使おうとすらしている。
ふむ。
「いいわ、私が試金石になってあげましょう」
「リン様!?」




