魔王様は挑まれる②
シエラが言っていた場所は、なかなかにいい場所だった。
大きく開けており視界も良く、腰を降ろすために適度なサイズの岩がいくつかある。またその岩を除けば足元に丈の低い草は生えているが平坦で、敷物をしいて腰を降ろすのも問題なかった。
雨が降り出したらすぐ側に隠れる場所がないけど、幸い今は雲一つない晴天なので問題ない。手綱をくくっておく木が近くにないのが難点かな。とりあえず細目の岩があってそれに縛っておいたので大丈夫だろう。もし外れて逃げそうになっても魔力ですぐとどめられるだろうし。
近くを流れている小川のせせらぎの音が心地よいその場所で、私たちは休憩兼昼食を取ることに決めた。
野宿が進むと保存食の類かあるいはそこいらで狩りや採集をしてくる必要があるけど、今日はまだ出発した日の昼食だ。宿の方で用意してもらったお弁当があるので、それを地面に敷いたシートの上に広げる。
「美味しそうです!」
旅に出てから大部分そうだったともいえるけど。フレアは今もにっこにっこだ。ほわほわするねぇ。
私やシエラは全く問題ないけど、フレアやユキはそこそこ足が疲れているだろうし、ここでしばらくのんびりしよう。それほど急ぐ旅でもないし。今日いける範囲に街や村があれば急ぐのもありだけど、今日はすでに野宿が確定している。
いやぁ、美少女4人の野宿とかアレな連中の良い的よね! 実際にはもし現れても私達のいい的になるだけなんだけども。
まぁ辺境過ぎて人通りが少ないから、そういった類のものに街道途中であう可能性は低いけど。
村や街ではならともかく、こんな所でこっちに目を付けているのがいたら、最初から私達を見当てで追跡している連中だろう。そうこないだの雑魚どもや、今の視線の主のように。
「どう、視線はまだ感じる?」
幸せそうにお昼を口にしているフレア達には聞こえないように小声で私がシエラにそう耳打ちすると、彼女は小さく頷いた。
「感じますね。向こうです」
シエラが視線を向けた先は、私たちがやって来た方向だ。やっぱりつけてきてるのか。
「街で感じたのと同じ感じ?」
「恐らく」
「ふむ」
シエラの言葉に、私は魔力感知の精度を上げた。
……ふむ、確かにいる。街中だと間違いなく埋没するレベルの極弱い人間の魔力反応がある。
逆に街ではシエラに視線の元を特定させない程度の実力があると考えると、これ純粋に魔力が弱いんではなく隠匿している可能性があるな、これ。
こんな地域で、そんなのがこちらを観察しているとなると、可能性が高いのは二つかな?
「仕掛けますか?」
「そうね、さすがにずっとついてこられるのもアレだし。……ただ食事が終わってからね」
幸せそうにお昼を食べているフレアと、その面倒を見ているユキの邪魔はしたくないもの。
後普通に私もお腹すいてるし。向こうから仕掛けてくる気配は今の所ないようなので、それでいいだろう。
というわけでフレア達とキャッキャウフフしながら、何事もなく楽しいお昼を終えました。
「よし」
「お姉様?」
パン、と太腿をたたいて立ち上がった私を、フレアが見上げてくる。
「どうなされましたの?」
「ちょっとお客様が来てるみたいなの。私達で対処するから、二人はそのまま休んでて!」
「わかりましたわ!」
フレアは本当に無邪気だなぁ。ユキは何らかを察したらしく、そっとフレアの方に身を寄せた。いいわね。
さて、と。
私、それにシエラは立ち上がると誰かがいる方へと少し足を進める。そして、そちらの方へ向けて声を張り上げた。
「さっきからついてきてる人、出てきなさいな! 出てこないなら居場所わかっているから力叩き込むわよ!」
魔力感知が出来ているから正確な場所も捕捉済みだ。今の所敵意は見せてないからいきなり攻撃しないけど、これで出てこないようなら容赦しないよ?




