魔王様は挑まれる①
「はぁー……すごかったですー」
「ふふ、まだ言ってるの?」
結局私たちはあの街には二泊三日で滞在した。これまでは立ち寄った場所が規模が小さいところが大部分だったからさほど見て回るようなところもなく、休息とお風呂と食事、それに睡眠をするだけって感じだったけど、今回は街の規模もありユキの能力の成長もあって一日分観光を入れた感じだ。
その滞在期間中、フレアはずっと瞳をキラキラさせて街や人たちを眺めていた。それから宿に戻ってきた後も興奮した様子でずっとその日に見たことをしゃべり続けていた。
……この子、中央方面の国の王都とかに連れて行ったらどうなっちゃうのかな。
ものすごく連れていきたい所ではあるけれど、こんな地方都市より全然広大で人通りの多い王都なんていったら逸れる可能性もあがるし、逸れた時の被害も大きくなる。
ついでに、やっぱり本拠に戻るのをやめてそっち方向行くなんていったら、シエラに絶対悲しそうな顔されるしなぁ。怒られるより悲しそうな顔をされる方がしんどいので、とりあえず今はこの方針は無しで。
今はまた、人通りの少ない辺境の街道を私たちは歩いている。
ルート的にはそろそろもう少し辺境から離れてもいい気もするけど……ま、こっちルートの方が間違いないし、あともしかしたらフレアとユキみたいな掘り出し物が隠れているのでは、という期待がある。
そうよなー、中央に近づくほど情報が流れるわけで、優秀な人間や特殊な能力持ちはすぐにどこかにスカウトされるだろう。勿論人が多い分優秀な人間は多いわけだけど、その分釣れる可能性も低くなるもんね。
まぁさすがにフレア程の掘り出し物はないと思うけど!
辺境にこのクラスの子がぽろぽろいるようだったら、聖王国とかももう少しこっちにスカウトとか回すはずだしねぇ。
ま、見つけられたら儲けくらいの気持ちでいましょう。すでに大当たり二人獲得しているわけだし。
なんにしろ、今は街を出たばかり。しばらくは規模の大きめな街に寄る事はない、イコールそれほど人に会う事もないので、当面は無しだ。
そういえば街で一頭馬を買った。自分たちで乗るためじゃなくて、荷物を運んでもらう用だ。
この先からしばらくはいくつか山を越える。道もあまり整備されたものではないから馬車は無理があるけど、さすがにちゃんと道があるとはいえ山越えの道を荷物持って歩くのは二人には厳しいだろうからね。
アタシとシエラはともかく二人は当然馬には乗れないから基本的には歩きにはなっちゃうけど、荷物がなければ大分マシだろう。アタシが乗せて走るっていう手もあったけど時間制限あるしね。
というわけで葦毛の馬を一匹街で購入したわけである。
ちなみにシエラが購入してきて街の外で合流したんだけど、その際フレアがしばらくぺたぺたとしつつ離れようとしなかったのは余談である。
今は基本的にシエラが手綱を引いて最後尾を歩いているが、フレアがちょくちょく振り返ってはニコニコしているのが可愛らしい。でもちゃんと前みて歩きましょうねー。
あ、ほら、つまずきかけた。ユキが慌てて支えたけど足元よくないんだから駄目だよー。というか、ちょっと疲れてきてるのもあるかな? 街を出てもう結構歩いている。そろそろ疲れてきてる頃か。
アタシはちょっと歩くスピードを下げると、後ろを歩いているシエラに並ぶ。
「? どうされましたか、リン様」
「この辺りさ、どっか休憩できそうな所あったっけ?」
先は長いので、休憩は適度に取った方がいい。そう思ってシエラに聞いてみると彼女は頷いた。
「さすがに人里やその類はありませんが、確か近くに小川の流れた開けた場所があるはずです」
「ああ、いいね。それじゃそこまでいって少し休憩しようか」
「そうですね。お二人もそろそろ疲れてきた頃でしょう。お昼時も近いですしね」
「そうねー」
シエラの言葉に頷くと、アタシは前を歩く二人に声を掛けた。
「フレア、ユキ! もう少し行ったらお昼にしましょう!」




