魔王様は間違えられたらしい②
「貴方が本来生まれるべきだった場所はラビュアータという世界でした。貴方は誤った世界へ産み落とされてしまったのです」
「えっと……」
「今まで貴方が暮らしてきた中で、貴方の周囲でおかしなことがあったりしませんでしたか? 例えば勝手にものが動いたり、突然割れたりとか」
──あった。昔から俺の周りではそういったオカルトじみた現象が稀に起きていた。そのせいで一時期幽霊憑きなんてあだ名がつけられたくらいだ。
「それは本来の世界で貴方が持つべきだった力が、微小ながら発現してしまった事により起こっていた現象です。そしてこれが今回の一件に関係しています」
口を挟む間もなく、彼女はそのまま言葉を続ける。
「その力は、リテラでは異質な本来存在しえない力。すなわち異物です。そして世界は異物を排出しようとする力が働きます」
「いや世界ってそういうものではないんじゃ」
「そういうものなんです」
「あ、はい」
勢いに負けて思わず頷いてしまう。
「とにかくそういうわけで、貴方は世界から弾きだされてしまいました。幸いな事にその傾向はこちらでも観測できていたので弾きだされた瞬間に捕捉し、この場所に引き込むことができたわけです」
「この……天界とやらにですか?」
「そういう事です」
ここにきてようやく、自分の身に起きたことを頭が理解してきた。
ようするに俺は神隠しにあったということだ。尤も彼女の言葉が真実ならばその犯人は世界そのもので、彼女はそこから救ってくれただけな訳になるが……。
そしてあと一つ理解したこと。彼女が俺を誘拐したのではなく世界が犯人なら──ある事実が付きつけられる。
それは確認したくないことではあったが、確認しなくてはならないこと。だから俺はそれを口に出して彼女は問う。
「それで……俺は元の場所に戻る事は出来るんですか?」
答えは即座に、断言として帰って来た。
「無理ですね。戻す事はできてもまたすぐに弾き出されるでしょう。そして次も確実にこうやって救出できるとはいえませんので、おすすめはできません」
「ですよね」
事前に予測できていたからか、この今のふざけた状況のせいか、或いは直前まで普通に仕事していたせいなのか、その回答にショックはあまり感じられなかった。もう二度と両親や友人達には会えないと宣言されたのと同じなのにも関わらずだ。
俺はそこまで薄情な人間ではないつもりだし、単に実感がまだ沸いていないだけだろう。もしかしたら後で号泣することになるかもしれない。だが今は、それより気になる事があった。それは
「戻れないのだとしたら、俺はこの後どうなるんですか?」
「本来貴方が産まれるべきだった世界に行ってもらいます。貴方達の言葉でいえば異世界転移という奴ですね。おあつらえ向きに行先は剣と魔法のファンタジー世界ですよ」
「この体のまま放り込まれるんですか?」
「それでも行けますし、魂だけでも行けます。その場合はそちらの世界で体が構築されますが、どちらにしますか? あ、どちらの体で言ってもサービスとしてその世界の基本情報はプリインストールしときますから言語問題とかはご安心くださいっ♪」
──何かのセールスを受けている気になるのは気のせいだろうか?
というか判断するにしても情報が足りないだろ。
「あ、ちなみにあなた行先の世界であるラビュアータとの紐づきが強いみたいで強く引き合いが来てますので急いで決定してください。あともうちょっとで強制転移が入りそうです」
「いや待て待て待て!」
なんで急にここで巻きが入った!? さっきまでのんびりしてたじゃねーか!
「いやぁ、私ももうちょっといけると思ったんですけど想像以上でしたね、あっはっは」
軽ぅ!
えっと確認すること確認すること──
「そうだ、能力はどうなるんだ!?」
「どっちの体でも一緒ですよー」
「外見は!?」
「それは私にはわかりかねます。転移先の世界で構築されますので」
お役所仕事みたいな回答を……いや。でも仕方ないのか?
まぁそれはともかく、だとしたら今の姿のままの方がいいのか? いざ新しい姿を選んで化け物みたいな姿だったら洒落にならんし。
「あと30秒くらいでお願いしまーす」
残り時間少なっ!?
……くそっ、これはギャンブルだ。今の俺の外見は正直いってフツー。だがもしかしたら転生先の外見が美形かもしれない、物語だとお約束だし! まさに一生に一度のギャンブル──くそっ、向こうに行ってから姿が切り替えられたりしたら良かったのに……!
「あ、それいけますよ?」
「え、マジで?」
「それで行きます?」
「それで頼む!」
「了解でーす。そしたら魂のみの転移ということで。お詫びの品として元の姿への変身能力ということになりますね」
よし、これで一安心……いやちょっと待て、今お詫びの品っつたな? え、これもしかして異世界転生するときに授けられるチート能力みたいな奴?
「そんな感じですねー」
「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
異世界転生で与えられる能力が元の自分の能力に変身する力ってなんだよ!
「あ、でもそれだとポイント余るのでもうちょっと能力は拡張しておきますねー」
「いやそもそも別の能力で……」
「残念、タイムアップのようです。それでは新たな世界で良い人生を♪」
ま、
まてやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そんな魂からの叫びもむなしく、俺の意識はそのまま闇に落ちて行った。