魔王様は街に立ち寄る①
雑魚キャラとのエンカウントというちょっとしたイベントはあったものの、それ以外は特に大きな問題が起きることもなく私達の旅は続いていて。
私たちは今、4人旅になってから立ち寄る中では一番規模の大きい街にいた。
ま、規模が大きいとは言っても辺境なのは変わりないので、中央の都市に比べれば微々たるものだけどさ。
それでもこれまで立ち寄ってきた村や村にちょっと毛の生えた程度の街に比べれば、人の数や店に並ぶ品々の種類も圧倒的に多い。そんな街の中を、フレアは目をキラキラさせながらきょろきょろと首を痛めるんじゃないかってくらい見回していた。時には首だけじゃなく体もふらふらと動いて、手をつないでいるユキはなかなか大変そうだ。
まるっきりおのぼりさんだなぁ。
仕方ないことではあるけどね。フレアにとっては、おそらく物心ついてからは初めてのこんな大きな街なんだし。そもそも小さな村ですら、彼女は行ったことなかったんだけどさ。
いくつかの村や集落は寄ったから、さすがに人にはだいぶ慣れてきたみたいだけど。
私とシエラだけなら正直なところ街にあまり寄らず一気に進む事も可能なんだけど、いくらフレアが想定より体力があって野営も苦にしないといっても、さすがに慣れない行程は疲労を蓄積する。食事も保存食や狩りで獲った動物の肉ばっかりになっちゃうしね。
だから途中の街はほどほどに寄っていた。女4人だけ、しかも傍目は腕が立つように見えない女性ばかりの旅(しかも一人はなぜかメイド服)だったから、親切なおばさんとかに驚かれたり、心配されたりしたっけ。
辺境の村、それも規模の小さい集落とかになると、村全体で共謀して旅人を襲ったりする事もあるからねぇ。旅人が他にいなければ、だれにも気づかれない完全犯罪だ。
まぁ私達にそんな事してくるのがいたら、村全体の人が一夜にして消えるという怪奇現象が起きるだけだけど。幸いここまでの行程ではそんな怪奇現象は発生しないで済んだよ。良かったね。
「フレアー、あまりここから離れないようにねぇー」
「承知しましたわ、お姉様!」
広場に並ぶいくつもの屋台に目移りしているフレアに対して、ベンチに腰を掛けたまま声をかけると、彼女はつないでいない方の手をぱたぱたと振って元気に返事をしてくる。
そんな彼女に手を振り返しながら、私も周囲を見回す。日中の食事時でもない中途半端な時間なせいか、人の姿はまばらだ。これだったら特に問題も起きないだろう。
フレアの魔術制御は成長は見られるものの微々たるもので、一人で街を歩くのはまだまだだいぶ先の話になるだろう。代わりにユキの方が、相変わらず順調に成長してくれている。ある程度自分で効果範囲を制御できるようになったようだし、効果範囲も10m近くなった。だから今みたいに人混みじゃない場所ではずっと手をつないでいる必要はないんだけど……フレアは満足げだし、ユキも満更ではなさそうだしいっか。
手練れの魔術士がいればこの場の魔力が無力化されていることに気づかれそうだけど、今のところはそんな気配はない。手練れじゃなくても魔術を使おうとすれば行使できないから気づくだろうけど、こんな場所でいきなり魔術を使う人間もいないだろう。だから心配なし。
シエラが帰ってくるまでのんびりしますかー。
フレア達にはお小遣いを渡してあるし、その範囲内では好きに買い物していいと伝えてある。まぁ世間知らずなんてレベルじゃないフレアだけならいろいろ問題もありそうだが、ユキが文字通りピッタリ付き添っているので問題ないだろう。
見眼麗しい少女二人にちょっかいを出そうとする不埒者が出たら私が出張る必要があるだろうけど、今のところその気配もないしね。
今ここにいないシエラは、宿屋を探しに行ってくれている。待ち合わせ場所はここだから、あまり動かない方がいい。ま、移動したところで魔導技巧のアイテムでお互いの所在がわかるけどね。
「ふぁ……」
今日の陽射しはポカポカと穏やかで、思わず欠伸が漏れる。
あー、さすがに転寝しないようにはしないとね。フレア達も心配だし、何より私みたいな美人がこんなところで眠ってたら変な事考える奴が出てくる可能性も否定できないしね!




