魔王様は(ちょっとだけ)暴れたい④
№2のオルバンや№3のシエラなど、高い実力を持った配下ができてからは俺はあまり前線には出ていない。別にバトルマニアとか殺戮狂ってわけでもないし、面倒くさいしな。大抵の相手は周りのみんなが処理してくれるのでお任せだ。
なんで初期にリンと接触した連中を除けば、俺の実力を見たことがない奴は割と多い。
だからといって、実は自分でも勝てるのではと考えるのはおかしいんだけどな。俺が実力で魔王ポジにいないとでも思ってるのだろうか? まぁ一応過去には圧倒的能力を持つ魔族を侍らせた戦闘能力の低い魔王もいることにはいたらしいけど……俺がオルバンやシエラを倒して従えているのは知られている情報なんだけど、情報収集能力がカスなんだろうか。あるいは都合のいいことしか理解できないくらい頭の中スカスカなのか。
「なんだっ……!?」
んで、そのスカスカ君──の生き残り達は、目の前で起きたことが理解できないのか慌てた顔で周囲をキョロキョロしている。
「何が……何が起きた!」
「わからん、こいつら突然……」
「まさか、魔王リンを倒した栄誉を自分たちだけのモノにしようと?」
……真正のアホかな?
ま、操作能力はあまり知られてない能力だから、俺が操作したとは思わんだろうけど。
「わからん……だが、とにかく魔王リンは倒した。手ごたえがなさ過ぎたが……」
真正のアホだー!
いやさすがにさっきのがハリボテだって事くらい気づくだろ! 死体も残ってないし!
あーでも、さっきから俺を見ても何の反応もしてないし、本当にアホの集団なんだな。こんなアホどもがよくこっちを見つけられたな──とか思ったけど、たぶん性格の悪いどこぞの魔王が情報流してるだけだなこれ。いずれどっかでシメに行かないといけないかもしれん。嫌がらせ目的だけでやるからなアイツ。
ま、それはおいおいとして。
もうこいつら見てても仕方ないな。時間の無駄だ。
このまま俺が誰なのかに気づかないうちに終わらせてもいいが……でも、そうするとこいつら俺に勝ったと思ったまま死ぬのか。それはムカつくな。
やれやれ。
イメージを浮かべ、いつものように棺桶の中からリンの姿を選択する。
「おっと」
体格差のせいでずり落ちそうなズボンを慌てて抑える。冥途の土産でも私の柔肌は見せてあげない。
とりあえずはベルトをぎゅっと引き絞り縛る。これで動かなきゃ大丈夫でしょ。こいつら相手に動く必要はないし。
「なっ……魔王リン!?」
はい気づくの遅ーい。
私はニタァと口の端を釣り上げた笑みを連中に向けてやる。
男たちはそれに一瞬呆けて固まった後……慌てて身構えて力を放とうとして。
「……!?」
次の瞬間崩れ落ちた。
一人は私の放った魔力で頭が弾け飛び。
残りの二人は生み出した血の槍で貫かれた。
「……リハビリにもならないなぁ」
投げやりのいい加減な攻撃なのに一撃でくたばられては、消化不良もいいところだ。まぁ倒すのが面倒なレベルではなく、なおかつ適度に実力を出して戦えるレベルの相手なんてそうそう出くわすわけないけど。
地元に戻ったら誰かに相手してもらった方がいいかな、これ。どんどん鈍っていくわ。──でもまぁ今はとりあえず。
「このままにはしておけないよねっと」
ほとんど人通りがないとはいえ、ここは街道だ。さすがに死体を7つ……いやまぁ最初に同士討ちした連中はぴくぴくしてるからまだ死んでないだろうけど、どうせすぐ死ぬから死体でいいよね。んで、そんなものを放置しておけないでしょ。
今度はシエラの姿を呼び出し、再びその姿を変える。……う、ちょっとおなかきつい。シエラの方が肉付きいいからなぁ。ほかの部分は凛太朗に合わせた服だから平気だけど。ま、そんなことよりも。
シエラちゃん、技を借りるぜ!
「イグニス」
言葉に応じ、私の手の中に長剣の柄が現れる。私はそれを握りしめると、転がる魔族達に近寄りそれぞれ乱雑に切りつける。
ただそれだけで魔族達の体は一気に燃え上がり……瞬く間に灰になった。うん、本当に便利だ、この能力。後は魔力で森の方に吹っ飛ばして……これで肥料にでもなるでしょう。
「終わり終わりっと……はぁ」
ため息が漏れる。終わったというため息ではなく、残念のため息だけどね。魔力感知の時点である程度はわかっていたけど、予想以下だったわ。はーあ。ちっとも暴れられなかったじゃない。
ま、いいや。とっとと戻ってフレアとユキ眺めて癒されましょ!




