魔王様は企てる①
ここ数日の調査で分かった事はいろいろある。
例えばこの森の所有者。
当然彼女の実家であるリューベック家の物かと思えば、違った。
ここの所有者はグスマン家という、都市国家ハルファシで一番勢力の強い貴族の所領だった。
それだけではない。
この森だけではなく、フレアの身柄自体もグスマン家に事実上あった。
リューベック家に関して魅了と変身を駆使していろいろ探りを入れてみたんだけど、殆どの人間はリューベック家にいるのは跡継ぎの息子一人と認識していた。
──娘一人ではなくてね。
現在のリューベック家にいるのは、9年前に輿入れした令嬢との間に設けた7歳の子が一人。9年前……フレアがこの森に隔離されてから一年後だ。
当然、フレアの母親ではない。
彼女の母親は産後の肥立ちが悪く、彼女を産んでから数か月後にはこの世を去っていた。
それが原因なのか、或いは元からクズ男だったのかはわからなかったけど、当主の男は残された一人娘は使用人(例のユキの前任の女性だったらしい)に任せっきりにして社交の場に出ては目についた令嬢を口説いていたらしい。
……別に前の奥さんに義理立てして一生独り身でいろとはいわないけど、まだ幼い一人娘を放置してその有様じゃ普通にクズ男な気がするわね。
そんなこともあり当主が外部で娘の話をほぼしなかった事、更には表に出る事もあまり許可しなかった事もあって、当時の使用人以外でフレアの事を知っている人間は殆どいなかったらしい。そしてフレアがこの森に来てからは、まるで元からいなかったように過ごしている。
まぁここまで話聞いたときそいつの屋敷燃やしてやろうかと思ったんだけど。逆にいえばこちらにしてみれば都合がいい。何せ幼いころのフレアの顔を知る人間すらほぼいないのだ。不快な事に目を瞑れば無視して構わない存在である。
では彼女を連れ出すのに何が問題か。
ここで先程のグスマン家が出てくる。
ボルコフ・グスマン。齢は今年で50。
都市国家ハルファシ設立当初に関わっていた名門であり、同都市の商業に関する権限を多く握る都市一の有力者である。
その彼が、フレアのためにそこからあがるで有ろう利益を放棄し森を与えこれまで面倒を見てきたのは、別に彼がフレアを可哀想に思い手を差し伸べた善良な人間であったからとかそういうわけではない。
このボルコフ・グスマン。とんでもない性欲魔人だった。
都市国家の中でもいろいろな権益を握っている権力者。そんな男がこの年にもなって未だ衰えない性欲を持っていたらどうするか。
まぁ権力を笠に好き放題するわよね。
商人や貴族の娘や妹、時には妻に目を付け、差し出せばいろいろと便宜を図り、差し出さなければ圧力をかけ没落させる。
やりたい放題だ。
でも辺境の小さな都市国家程度の中では、絶大な権力を誇る彼ならそれも許される。許されてしまうのだ。
そして、フレア。
彼女が今の魔力による結界を生み出す元となった視線の男。証拠となるものがあるわけではないけど、このボルコフで間違いないハズ。
彼は当時まだ6歳だったフレアにすでに目を付けていた。
幸いな事にペドフィリアではなかったようでその当時にいきなり手を出しはしなかったが、その将来性を見込み恐らく余計な虫を付けないように指示したのだろう。
先見の明はあるね。じっさいフレアは実に可愛らしく育っているし。
それから魔力結界が発生し、ボルコフはリューベック家から事実上フレアを引き取り、街から離れほぼ放置状態にあったこの森へと封じた。
まぁ大したスケベ心と執念だと思うよ。将来抱くためだけにそこまでするんだから。
ようするにだ。
この森はいうなれば牧場で、フレアはその場所で飼われていたといえる。食べごろに育つまで。
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