魔王様は正体を明かす②
まぁそんな感じなので、この世界の物語に出てくる魔王というのは必ずしも人に対する"悪"じゃないのよね。割合としては敵役が多いけどさ。
だから彼女は私の正体を知っても大して言動は変えないと思ったけど、ビンゴだったようだ。
そもそも彼女にとっては魔族だろうがなんだろうが、殆どの存在は初めて会う存在で変わらないしね。
そんなフレアは今は席を立ち、私の事をきょろきょろといろんな角度から見まわしている。
とりあえず見られるに任せていると、彼女はしばらくしてから首を傾げた。
「……お姉様、お美しいですけど造り自体はわたくしと変わりませんのね。人型魔王様ですの?」
「あー。高位の魔族は大体人間と姿変わんないよ?」
「まぁ、そうなんですのね!」
魔族を敵役にしている創作とかだと、魔族の姿を醜悪にしているケースとかちょくちょくあるからその辺も読んでるのかな。その辺の作品って現実とはかけ離れてるからあまり人気がないんだけど……まぁ彼女には時間が有り余っているからね。
「となると、お姉様は良い魔王の方ですのね!」
「いや、外見で判断しちゃだめよー」
「……それじゃあ、お姉様は悪い魔王様ですの? わたくし酷い事されてしまいますの?」
「しないしない。少なくとも悪い事はしない……あ、いやするかも?」
「まぁ!」
私の言葉に、フレアは口に手を当てて驚きの声を上げる。
ただその表情は恐怖とかそういったものはまるでなく、どう見てもワクワクしているソレ。きっと彼女の頭の中では「物語のヒロインみたいな事が私にも?」くらいのことが浮かんでいるんだろう。
だから私は悪戯げな笑みを浮かべて、彼女の顎を軽くつかむ。
そして顔を間近まで近づけて、言って上げた。
「今目の前にいるお姫様を攫っていこうかな、と考えているのよ」
「まぁまぁまぁまぁ!」
私の言葉に彼女が一瞬目を輝かせる。が、
「あ、でも……」
即座にその輝きは即座に消え、彼女は視線を落とした。
「ダメですの。わたしく、ここの森を出ると皆様に迷惑をかけてしまうらしいので……ここから出ることができないのですわ」
──本当に純粋な子だ。攫われる、と言われているのにそれを否定する言葉がそれだとは。でも、それなら問題ない。
「その迷惑だけど、なんとかなるわよ。──動物とも触れあえるようになるわ」
「本当ですの!!?」
過去一でいい反応が来た。というか勢いよく私の方へ乗り出したせいで腰のあたりを机にぶつけたのが見えたけど、当人はそれにも気づかずに私へ顔を寄せてくる。……さっき私がした時より顔が近くて、思わず私の方が椅子に座ったままのけぞってしまった。
「たくさんもふもふできますの!?」
「もふもふできるかは相手の動物次第だけど……少なくとも今みたいに近くにもよれないって事はなくなるはずよ?」
「今すぐお願いしますの!」
勢いがすごい。というか鬼気迫るものを感じ、私は思わず苦笑いを浮かべると彼女の体を軽く押して距離を取る。
「さすがにすぐは無理よ」
「あ、はい。申し訳ありません」
「あのね、貴女は凄い魔力を持ってるのね。そしてそれが垂れ流しになってて、その魔力が他の生物を遠ざけているの。だからね、力の使い方を覚えればそういったこともなくなるわ。その力の使い方を私が教えて上げる」
「よろしくお願いしますわ、お姉様!」
即答が帰って来た。
「いいの? 力の使い方を覚えたら私は貴女を攫って行くわよ?」
その問いに、フレアが口を開こうとした時だった。
これまでずっと立ったまま黙って話を聞いていたシエラが、突然言葉を発した。
「リン様。こちらに近づく気配があります」




