魔王様は正体を明かす①
数日後。
「お姉様ぁっ!」
再びフレアの元を訪れた私は、いきなり正面から彼女の柔らかい体を受け止める事になった。
「お待ちしておりましたわ!」
今の私の姿は獣ではなく、本来の姿。なので私の胸元辺りにフレアは頬を擦りつけてくる。ふふ、これだとフレアの方がよく人に懐いた動物みたいね。
こないだ街に向かう際に人が通るのに支障ない道を見つけておいたので、今回は白狼の姿は使わなかった。どうせ後でねだられて変わることになるだろうけど、今はまだダメ。
これからお話しなくちゃいけないからね。
なのである程度頬ずりをさせてあげてから、私はそっとフレアの体を離す。
「お姉様?」
「いろいろとお話したいことがあるの。だからくっつくのは後でね?」
「わかりましたの! それで、そちらの方は?」
今気づいたのか、それとも気づいていたが私に甘えるのを優先したのかはわからないけど、私の背後に視線を向けてくる。
そこには、黒髪のメイド服を纏った女性が立っていた。シエラである。
街での調査は済んだので、顔合わせも兼ねて一緒に連れてきた。
視線を向けられても、シエラは沈黙を守ったままだ。恐らくは私が紹介するのを待ってるのだろう。なので私からフレアに、彼女の事を紹介することにする。
「この子はシエラ。私の……」
そこで私は言葉を止めた。そしてシエラの方に視線を向けて
「ねぇシエラ」
「なんでしょうか」
「貴女、私の何って紹介してもらいたい?」
「……忠実な部下で」
ありゃ、普通に返してきたか。もうちょっと動揺とかそういったのを見せるかと思ったんだけどつまらないなぁ。
まいっか。
私はフレアの方へ視線を戻し、言葉を続ける。
「そういう事よ」
「はぁ。と言う事はお姉様も貴族ということでしょうか?」
「違うわ──王よ」
「まぁ、王様ですの! すごいですわ!」
純粋に私の言葉を信じ、楽しそうな驚き方を見せるフレアの向こう、シエラは「え、言っちゃうの?」と言わんばかりの表情を見せていた。
なので彼女に向けて私は頷いてやる。
「どうかしましたの?」
そのやりとりに気づいたのだろう。フレアが首を傾げて聞いてきた。
そんな彼女に、私はにっこりと笑みを向けて伝える。
「ちょっと込み入ったお話がしたいの。お家に入れてもらってもいいかしら?
◇◆
「まぁ! お姉様は魔王だったんですの!? すごいですわね!」
前回紅茶を頂いた彼女の家の一室。前回同様に出してくれた紅茶で舌を湿らしつつ、単刀直入に切り出した正体に対するフレアの反応がこれだった。
純粋な驚きの感情。そこに負の感情は感じられない。
やっぱりね、と思う。
こないだ泊まった時、この部屋やベッドの中で(変な事はしてないわよ)彼女が眠るまでいろいろ語り合った時に気づいていた。
彼女のこの世界に対する知識はほぼ書物で覚えたものだ。
人とあってないから当然といえば当然。そして彼女は知識書や現代社会の情勢に関するものではなく、創作物語を好んで読んでいる為知識の偏りがすごかった。
さて、ここで注意事項。
以前も言ったけど、この世界において魔族や魔王はあくまで起源を別とする別種族なだけで、人族にとって絶対的な敵というわけではない。
魔族は最も力の強いものによって統治される。だから、その時代に君臨した王によって人間との関係は様々だ。
過去には人族と全面戦争になったこともあるし、逆に殆ど相互不干渉だった時代もある。中には突如現れた強大な敵に対抗するため、共闘した時代だってあるのだ。
現代だってそう。主にカルガルカンのアホのせいで最近は魔族への敵意は強くなっているけども、人間と友好に過ごしている魔族もいる。
私の女神様、最愛なる親友アージェがそうだ。なにせ彼女はとある人間の街を庇護下(支配ではなく庇護だ)においているくらい、人間には友好的。そしてその街や近郊の住人達からも愛されている。さすがアージェ。




