魔王様はお風呂に入る①
翌日、私は一度街へ向かうためフレアの元を離れることにした。
出際に、
「お姉様、行ってしまわれますの?」
という言葉とともに、ものすごく悲しそうな顔で袖を引かれたけど。
正直もう少し残ってあげたい所ではあったけどあの場所では情報を集めることが出来ないし、何より今日一度街に行かないと今度はシエラに泣かれる。
人気者はツラいわ!
とりあえずフレアに関しては必ず近いうちにまた顔を出すことを約束して、
「でしたらその前にもう一度もふもふさせて頂きたいのですわ」
という言葉に負けて小一時間ほど白狼の姿でモフらさせて上げた後、そのままの姿で当初の目的地であったハルファシの街へ向かった。
あ、勿論森を出る前に元の姿には戻ったわよ? さすがにあの姿のまま街へ入ったら騒ぎになるし。
ハルファシは、辺境にあるにしては比較的大きな街だった。
それもそうだろう。この街ハルファシは都市でもあり国家でもあるからだ。
中央に位置する大国達の領土の外、辺境と呼ばれる地域にある国はこの形式のものが多い。一つの都市とその近隣のみの都市国家。
辺境地方はさまざまな理由から人間が居住しやすいエリアがさほど多くはなく、その結果それぞれの都市間の距離が離れるからだろう。
私はその都市国家であるハルファシに到着すると、真っすぐにシエラの場所に向った。
どこのあたりで宿を取るとか、どこで待ち合わせをするとかそういった事は一切約束はしていない。その必要がないから。
というのも、私もシエラもお互いの位置を把握できる道具があるからだ。
魔導技巧。
近年人間達の手によって生み出された、魔力の流れや性質の変化をとある鉱石と絡繰りの力を持って扱う技術だ。
私がこの世界に来るちょっと前から生まれた若い技術なのと、そのとある鉱石がそれほど豊富に流通していないため現状市井にそれほど広まってはいない。
出回っている物にしたって魔力のちゃんとした操作を学んでいない人間に簡単なレベルの魔術を取り扱えるようにするようなもので、"ちょっと生活が便利になる"程度のものだ。
だけど、ごくわずか、一部の天才により生み出されたワンオフ品の中には非常に便利なものが存在する。
そしてウチには天才がいるのです。
今私が使っているのが、その天才が作ったアイテムの一つ。同じアイテムを持つ相手の位置を表示するレーダーのようなものだ。なんでも魔力を特定の波長に変化させ微弱な力を周囲に発信させているらしく、それを受信した方角と減衰のレベルから位置と距離を特定させているとかうんたらかんたら。
ま、そっちの技術には一切手を出していないから難しいことはさっぱりわからないけど、その探知範囲が結構広いのでこういった大きな街で合流するには非常に便利なアイテムなのです。
というわけで、そのアイテムの力で私はシエラが宿泊している宿へと無事合流。
彼女がとっていた宿屋は規模は大きくないが、非常に立派な──恐らくこの街を稀に訪れるであろうVIP級が泊まるために用意されている宿。その場所を彼女は貸切で借りていた、
それだけ立派な宿であれば、当然あの施設もあるわけで。だとしたら最初にすることは決まっているよね?




