魔王様はパーティを追放されました②
あー。うん。
「何言ってるんですか? 私の名前はヘルゼ・ナッツです。リンなんて人知りませんけど」
ここ半年使い続けている偽名を答えてしらをきろうとする私に、彼は言葉を続ける。
「あの、俺達依頼斡旋所の人に聞いたんです。貴方を紹介してくれた人もあなたに依頼を回してる人もあの人だって聞いたので。そしたら、教えてくれました」
「あいつぅー!」
思わず私の口から反射的に言葉が漏れる。って、ダメじゃん! この反応認めてるのと同じじゃん!
「や、やっぱり……」
当然のように、私の口からこぼれ出た言葉を聞いた彼らは自分達の抱いていた疑念が確信に変わったことを表情から感じ取り、私は観念することにした。
「はーい、そうですー。私は魔王リンちゃんですー」
明らかにむすっとした声で私はそう言うと、自らの能力を解く。
──と同時に、部屋に置いてある姿見に映る私の姿が切り替わった。
元は栗色のふわふわした肩までの髪と同色の瞳、それに胸に豊かな膨らみを持った10代後半くらいの少女。
それが一瞬で赤い瞳に銀髪、透き通るように白い肌をした20前後の、美少女とも美女とも呼べるような年頃の姿に変わる。
これが私の今の本当の姿だった。
しかしこの切替時毎回ブラがずり落ちてちょっとイラっとするんだよね。次本拠に帰った時にヘイゼルにセクハラして鬱憤を晴らすかなぁ。
ま、それは後の話として。
私の本来の姿を見たパーティの仲間達は、全員揃って腰を抜かしていた。そしてその中でリーダーは腰を抜かしたまま私の足に縋りついてくる。
「ちょっと、セクハ……」
「あの、彼を殺さないでください! 我々が教えてくれないと本部の方に癒着の報告をするって脅迫したんです!」
「人聞き悪い! 私の事しってるでしょ!」
「はい、人間に対して友好的な方だと聞いています! なのでお許しください!」
「わかったから脚から手を放しなさいっ!」
「す、すみません」
リーダーは床に四つん這いになったまま、カサカサという擬音が似合いそうな動きで後ろへ慌てて後退する。
その彼の姿を見つつ、私はため息。
依頼斡旋所のおっさん、私がこのパーティに加入するために正体明かして脅して紹介させたんだけど、まさか追求されてゲロるとは思ってなかった。私残虐系魔王じゃないし、脅しが足りなくて甘くみられたかなー。
とりあえず殺しはしないけど甘く見られたのはムカつくし後で軽くシメにいくかと思いつつ、私は腰を抜かして床にならんでいる皆に対してめいいっぱいの優しい笑みを向けて声を掛ける。
「それで、私がパーティから追放される理由は何かしら?」
「いや魔王様と一緒のパーティなんか組めるわけないじゃないっすか!?」
「なんで」
「魔王同士の抗争に巻き込まれたりするのは勘弁ですし、他の傭兵達にも狙われる可能性もあるじゃないですか!」
「そんなことは……それほどないよ?」
ないと断言できないのが辛い。人間の中には魔族ってだけで襲ってくるキチ〇イとかもいるからなー。パノス聖王国の連中とか。あと前者も実は一度私の正体しってる他の魔族の襲撃受けてるので否定できない。
「とにかく……勘弁してください。リン様の目的はなんだかしりませんけど俺達まだ駆け出しの冒険者なんす。魔王と一緒に旅とか荷が重すぎて……」
あー……これ無理か。完全におびえられちゃってるしこのままパーティーと同行しても私の望む展開になる可能性はもう殆どなさそうだ。
はぁ。せっかく見つけたいい素材だったのになぁ。
「わかったわ、残念だけどパーティ追放を受け入れます」
そう答えると、明らかに彼らの表情に安堵が浮かぶ。そして彼らは慌てて立ち上がり姿勢を正すと揃って頭を下げてきた。
「ありがとうございます!」
追放される側が感謝の言葉を言われて送り出されるのってどうなのかな。私は大きなため息を吐くと身を翻し、扉を開いて外へでる。
「あ、そうだ」
イヤリングを装って身に着けている魔導技巧マギテクノのアイテムを起動し、魔族の証である緋色の瞳を偽装しながら、そこで私は振り返ってリーダーに向けて声を掛けた。
「以前受けた告白だけど、こういう事情があったので受けれなかったの。ごめんね」
それだけ一方的に告げると、私はパタンと扉を閉じた。
次の瞬間、女の怒声や何かがぶつかる音が部屋の中から聞こえてきたけど、この扉の向こう側で起きる出来事は最早私には関係ないことだ。
はーあ、半年順調に進んでいた計画もこれで終わり。
哀れ私はパーティ追放の憂き目にあってしまいました、かなしいね。