魔王様とひとりぼっちの少女①
このままだとまたさっきの繰り返しになると判断した私は、軽く身を振って彼女から身を離すと、後方へと大きく飛び退った。
──うっわ、すっごく悲しそうな顔してる!
余りにも哀愁を誘うその顔に思わず再度近寄ってあげたくもなるけど、ずっとこの格好のままでいるわけにもいかないので踏みとどまる。
少女は地面に座り込んだまま、ずりずりとこちらににじり寄ってきた。
いやそのゾンビムーブ止めなさいよ。ドレス泥だらけになるわよ?
んーと。
私は周囲に視線を送る。
周囲に人影はなし。充満した魔力のせいで魔力感知はしづらいけど、この辺りは割と視界が開けている。恐らく今この辺りには私達以外は誰もいない。
なら、いっか。
正面の少女は間違いなくターゲットだ。
こないだまでの同僚みたいに元々傭兵的なものであるならともかく、恐らくはここに引きこもってるであろう彼女を連れ出すとなれば、どうせ正体を晒すことになる。本来ならある程度相手のキャラクターを掴んでからにするべきではあると思うが、まぁいいでしょ。
私は変身を解除した。
次の瞬間、ほぼ一瞬で私の姿が切り替わる。
白い毛並みの狼はまるで溶けてなくなったように消え去り、そこには代わりに銀髪の美少女が出現する。
──全裸で四つん這いの姿で。
まぁ元が四つ足歩行の生物だから仕方ないんだけどひっどい絵面よね、これ。
突然目の前で起こった事に目を見開いて動きを止めた少女にちらりと視線を送りつつ、私はゆっくりと立ち上がると肘や膝についた汚れを払う。
んー、お風呂入りたい。
それから私は立ち上がったことで下に滑り落ちた荷物を拾ってから、彼女へ改めて視線を送る。
ばっちり正面から視線が嚙み合った。
それで硬直が解けたらしい彼女は、ゆっくりと右手をあげると私を指差し
「もふもふが綺麗なお姉様に変わりましたわ!」
「あら、ありがと」
「そういう種族の方ですの? お本でそういう方々もいらっしゃると読んだことがありますわ!」
あー、私のこれは種族特性ではなくお詫びの品としてもらった私自身の固有特性だけどその説明なんてできないし、魔族の中には獣化能力を持つ連中もいるからそれでいっか。
「ええ、そうよ」
私が頷くと、彼女は再び目を輝かせて立ち上がる。そして私の手をぎゅっと握ってきた。
「すごいですわ! すごいですわ! 初めていらしたお客様が物語の中でもレアな種族の方なんて! 今日は素晴らしい日ですわ!」
そう早口でまくしたて、私の手を掴んだままブンブンと降ってくる。
初めて?
彼女の言葉の中に気になるキーワードがあったが──でもその前に。
「とりあえず話は後にして服を着させてもらっていいかしら?」
普通に寒い。