魔王様はモフられる②
少女は30分くらいかけて私の体を堪能した後(これもやましく聞こえるわね?)、遊び疲れた子供のように私の体にもたれ掛かったまま眠ってしまった。
まるで警戒心がない子だなぁとは思うけど、この結界のせいで基本生物が寄らないから警戒する必要がないのかしらね。となるとこの結界意図したものではないのかしら。だとしたら力に対する精度の低さも理解できる、
ま、その辺りはこの子が目を覚ましたら聞きましょうか。
樹々の間から差し込む光の角度から見ても、まだ日暮れに近い感じでもない。なんだかたまに幸せそうな寝言をつぶやきつつすやすや寝息を立てている少女を起こす気にもならず、私は彼女の寝具として時間を過ごしていた。
まぁ、日が暮れる頃まで待って起きなかったら起きてもらうけど。
別に日が暮れて寒くなるからとか、動かないのがつらいとか、そういう理由じゃない。
力の制約のためだ。
私の能力の一つである変身能力には制約が多い。
一つはすでに説明したストック数。変身対象は無制限に記憶できるわけではなく最大11個までしか覚えておけない。この枠は当初8だったから徐々に増加してはいるんだけど、なんにしろ上限付きだ。
そして変身対象の登録方法だけど、これがめんどいのよね。
なにせ血液の摂取。かつ対象から流れ出たばかりの新鮮な血の条件付きだ。
これと、もう一つの制約のせいで自分より強い相手の姿をコピーして無双する! とかできないよね。実際今登録しているのって、基本的に私に対して友好的な相手から合意の上で分けてもらったのばっかりだし。
それから、無双できない理由であるもう一つの制約。変身後は相手の持つ能力自体も使えるようになるんだけど、これ100%そのまま使える訳じゃなくある程度減衰してしまうのよね。相性にもよるんだけど、相性がいい相手なら90%くらい、悪い相手なら30%くらいまで減衰しちゃう。
なのでコピーした能力だけで戦えば、まずコピー元には勝てない。
私が元から持つ能力自体は(これも変身時には少し減衰するんだけど)使えるから、組み合わせて戦えば勝てるけどね。
で、最後の制約。これが起きてもらわないといけない理由なんだけど。
実は変身していると、だんだんその変身対象に意識が近づいていってしまう。
要は一定期間以上その姿のままでいると、その人物そのものになってしまうのだ。
こないだまでヘイゼルの姿でパーティーに参加していた時も、ちょくちょくパーティーから離れて元の姿に戻ったりしてたのよね。
まぁ、人の姿の時は大丈夫。そんなにすぐには引きずられないし、例えそうなったとしても変身しているという意識は残ってるから変身を解けば問題ない。
だけど動物に変身している時は問題。人に比べて意識が引きずられやすい上に、そのまま獣の意識になってしまったら変身を解除しようなんて気になるかも怪しいのだ。
だから、このままの状態で一晩眠られたりしたら困っちゃうんだけど──
「んっ……んっ……」
大丈夫そうかな。彼女が小さな呻き声と共に、体をモゾモゾと動かし始めた。意識が覚醒しつつあるらしい。
そのまま少し待っていると、彼女は目をこすりながらゆっくりと体を起こした。
そして寝ぼけた眼で私の事を認め、カッと目を見開くと
「もふもふですわ! もっふもふですわ!」
うん、さすがにループするのは勘弁してもらえるかな?