魔王様は服を脱ぎました②
森の中は鬱蒼と草木が生い茂っていた。
樹々だけではなく生い茂った蔦などもあってジャングルのようになっているその中を、私はゆっくりと進んでいく。
今、私は白い狼の姿になっていた。私が現在ストックしている9つの姿の内の一つだ。
この白い狼、高い知能を持っておりまた人間を襲ったような事例もほぼなく、むしろ人間に協力するようなこともあることから地域によっては神獣みたいな扱いされている場合が多いので、人と遭遇した時に狙われたり逃げられたりしづらいのよね。
背中には先程脱いだお洋服が入った袋を背負っている。これはシエラが括りつけてくれたもの。
実は最初、私は特に何も持たずに森に突入するつもりだったんだけど、そしたらシエラに
「術士とあった時、獣の姿か全裸で話しかけるつもりなんですか?」
と指摘されてしまった。
はいごもっともです。どっちの場合でも変な存在だと思われますね。
というわけで、お洋服を背中に背負ったまま蔦や草木を押しのけて森の中をさっきから進んでるんだけど……
この森、明らかにおかしい。
辺境とはいえ、人の全く住まない地域でもないのに人の手が全く入っている形跡がないのだ。全く整備などされてないと一目でわかるレベル。
この世界の森って普通は狩人が獲物を獲るために立ち入ったり、薬草となる植物や果物の類を採りに近隣の町や村の人間が入ったりするからある程度は道のようなものができる。またそういった人間が立ち入らない森は貴族やその地方の領主の管理下にあったりするので、むしろ管理人がいてきちんと整備されていたりするのだ。
だけどこの森はどっちにも該当しない。まるで人の存在の気配がないのよね。
いや、それどころじゃない。
獣道のようなものですら、さっきから見当たらない。これは異常だと思う。
森に入ってから、私は植物以外の生き物をまるで見ていない。小動物は勿論昆虫とかも見ていないけど、これは理由が分かっている。この結界が人だけではなく他の生物も払ってしまっているのだ。
だけど、動物や昆虫の死骸ですら一切見つからない。植物以外の生物がここに存在していた気配もない。
そういえば、花を咲かせた植物も見かけないわね。
植物が生い茂る生命に一見満ち溢れた森。なのにそれ以外の生命の気配は一切感じないアンバランス。
──果たしてこの結界はいつから張られているものなんだろう。
森の様子を見る限り、一ヶ月や二か月ではすまなそうだけど……
森を奥に進むたびに力は強くなっていくので、方角などまるでわからない状態でも道に迷う事がないのは助かるけど……なんか力が垂れ流しになっているみたいで細かい場所がいまいち特定できない。
実はこれ、人じゃなくて何らかの高い魔力を秘めた道具がぶっ壊れて力垂れ流し状態になってるだけとかだったらどうしよう……
そんな事を考え始めた頃だった。
ん?
急に、視界が切り替わった。
そこら中に生い茂っていた蔦や雑草が殆どその姿を消し、頭上をほぼ覆っていた樹々もその数を減らし、そこら中に木漏れ日が零れ落ちている。
明らかに人の手が入っているソレだ。これは、やっぱり当たりを引いたかな?
感じる魔力の気配は非常に濃い。この結界の主より魔力の低い者なら、間違いなく一時たりともここにいたくないレベル。ここに求める人物がいるのは間違いないようだ。
ただ、ほんと濃くてどこにいるか分かりづらいなコレ。結界を張ってるんだからそれが集中している所にいると思ったんだけど、そういった魔力の集中している感じがない。本当にただ垂れ流してるだけじゃないかしら?
どうしようかな。とりあえずここまで整備されているんだから、その中心部の方へ向かえばいるかしら。
「モフモフですわ!」
へ?
「モフモフですわーっ!」
歓喜にあふれた声が、突如頭上から降って来た。