魔王様は服を脱ぎました①
すでに上半身は下着姿になった私は、その脱いだ服をさっきまで背負っていた荷物の上に置いて、続いて靴と靴下を脱ぎ捨てながらシエラに答える。
「この辺りの森って結構広いんでしょ?」
「はぁ、そうですけども……」
「しかもこんな鬱蒼と茂った森、人の姿だと走り回りにくいじゃない。白狼の姿に変わるのよ」
私の変身、残念ながらというか当然というか、変身可能なのは体だけで身に着けている服はそのままだ。だから大きい体から小さい体になるならともかく、その逆だったり人の姿でなくなる場合は服を着たまま変身すると大変な事になっちゃうのよね。
だからこうやって先に脱いでおく必要がある訳で。
「ちょっと待ってください!」
靴と靴下を脱ぎ終わり、次はズボンのベルトに手をかけたところで、シエラが慌てて私の腕を掴んだ。
「何?」
「何、じゃないです! 何をする気ですか!?」
「何をするかって……この結界を張っている術士を探しに行くに決まっているじゃない」
何を当然の事を? と少々呆れながら言うと、腕を掴むシエラの力が強くなった。
「館に帰るんじゃないんですか!?」
「いや、何のためにわざわざ遠回りルートを通ってるのよ?」
私の返しに、シエラはうっと言葉を詰まらせる。
館への帰路の途中とはいえ、こんな辺境地域に足を踏み入れているのは魔王退治なり領土繁栄の為の人材を探すため。
そこにこの結界だ。
力の強さはかなりのモノ。なのにその精度は素人魔術士が張ったようなお粗末な結界。なんでこんなところで結界を張っているかはわからないけど、魔力のキャパシティは大きいのにろくに魔術を学んだことがない人間が張っているとしか思えない。
即ち、そこに磨けば光る原石がいる事は間違いないのだ。探しにいかない理由がないわよね?
「シーエーラー?」
私の腕を掴んだまま固まってしまったシエラに声を掛けると、彼女がビクンと体を震わせる。
彼女は一度私を戸惑いの見える瞳で見て、それから一度目を逸らし、それからもう一度今度は上目遣いにこちらを見てきて、
「あの……またどっかにいっちゃうんですか」
「う″っ」
今度は私の口から変な声が漏れた。
シエラ、ウチの№3だからクッソ強いのにちょくちょくこういった小動物ムーブするんだよねぇ。一見気が強そうなのにいろいろとよわよわなところが多いのワリと反則でしょ。
思いっきり構ってやりたい気持ちになるけどそこはなんとか我慢して、私は掴まれていない方の手を彼女の頭の上にポンと置く。
「大丈夫よ、そのままどっかにいったりしないから。シエラはひとまず街に先行して宿を取って待ってて頂戴。後で合流するわ」
「どれくらいかかりますか……?」
「これだけ強い魔力を垂れ流しにしてるんだから見つからないってことはないでしょ。今日中──はさすがに厳しいかもしれないけど、明日には一度合流するわ。勧誘に時間かかりそうだったらその後はまたご相談ということで」
「……わかりました」
シエラが掴んでいた腕を離す。まぁ彼女は極論私と一緒に居れればいいんだから、どこかに行かない事を約束すれば納得してくれる。
それじゃ、と私はベルトに手をかけて
「いやいやいや待って待って待って!」
「もう、今度は何?」
「今度は何? じゃないですよ! こんなところで服を脱がないでください! 街道ですよここ!?」
「別に近くに誰もいないじゃない」
「ダメですよ! もしかしたら脱ぎきったところで人が通るかもしれないかもしれないし、遠くから覗きされているかもしれません!」
「いやなんでこんな所を覗くような事をするのよ。極度の暇人か何らかの異常者でもない限りこんな何もない街道を眺めてたりなんてしないでしょ?」
「とーにーかーく! 脱ぐにしてもせめて森の中に隠れてからしてください!」
「はいはい、シエラは心配性ねぇ」