魔王様は臭いがちょっと気になる②
私のこの能力、基本的には範囲内の魔力を探るというもの。これだけで対象がどれくらいの魔力を持っているか知覚できるので、その時点で大体の現在の相手の能力が分かる。
さらに! お得な追加能力!
対象を完全に一人に絞って集中する事によって相手の将来的な最大キャパシティ──すなわち成長の限界を知ることも出来るのです! これで将来的な成長株を見つける事ができるよ、お得だね!
……なんてちょっと通販番組風に言ってみたけど、これ別に私だけができることじゃない。他の魔族でも使えるのはいるし、人間側でも感知系特化で鍛えてればそれくらいできる人間はいるわけで。
そうなれば当然都市部とかにいるそういった人間はそうそうに見つかってスカウトされてしまう訳で。こないだまで一緒にいたパーティーの皆だってこれまでよく見出されなかったなと思うくらい。スカウト合戦は熾烈なのだ。
で、辺境である。
辺境ならそういったスカウトの目が届いてない場所も多い。だからさっき言ったように掘り出し物がみつかる可能性があるのだ。その反面人の数は中央に比べれば圧倒的に少ないから、そもそも魔力の高い人間に会う事すらなく空振りの可能性も高いんだけどね。
うーん、掘り出し物いるといいなぁ。
でもその前に、ね。
私は自分の服の袖の匂いを嗅ぐ。
うん、臭い消しの為の香水の香りの中に汗臭さがある。まぁすでに4日も野宿で済ましてるから洗濯してないし、体も途中で見つけた小川で体を拭いたくらいだから当然と言えば当然よね。いくら私が超絶美少女だといっても普通に老廃物は出ちゃうので。それに馬車でも引き連れてない限りは着替えは最小限しか持ち歩けないから、着ているお洋服もずっと一緒(あ、下着だけは変えてるよ!)。そりゃ臭いもしてくる。この世界では普通の事だけどねー。
そもそも毎日お風呂に入るのなんて贅沢事だし。でも
「今日街についたらまずお風呂付の宿探しだねー」
「ですね。湯ではなく水浴びでもいいですが、とにかく体は洗い流したいです」
「洗ってあげよっか♪」
「普通逆では?」
「シエラも私の事洗ってくれればオッケーじゃない?」
「……そういう事であれば」
まぁ問題はこんな旅人もあまりこないような辺境にそんなちゃんとした宿があるかってことだけど。商人とかまで全くこないって事はないはずだし、さすがにまるっきりないなんて事はないとは思う。もしなかったらお金を積んでそれなりの規模の商人の所のお風呂でも貸してもらおうかな。
お金積めば貸してくれる人いるでしょ。お金は持ってるしね。シエラが。
ともあれ今日はお風呂か、楽しみだ。考えただけでテンションが上がってきたので、私の口から思わず口笛が、
──ん?
流れ出る直前で止まった。
なんだろう。なんというか、急に空気が変わった、そんな気がする。これって……
シエラの方に視線を向けると、彼女は真剣な眼差しで頷いた。そして数歩下がってからまた元の位置に戻り、
「丁度ここが境界線ですね。……結界でしょうか?」
うん、確かにこの感じはそう。何かの結界に入った感覚だ。それにこの感じは
「人払い系の結界かな」
「ですね。ただちょっと違和感を感じますが……」
その違和感は私も感じていた。
この結界には強い魔力を感じる。結界に入った人間──いや、この感じだと生き物全般かな──は、なんとなくの不快感や嫌悪感を感じ、自然とここに近寄るべきではないと判断して離れていくだろう。
だが、その効果は私達には発揮されていない。
それはこの結界の精度が低いためだ。ただ強い魔力をごり押しで貼っているだけ、そんな感じがする。だからより強い魔力を持つ私やシエラは普通に抵抗できてしまい効果が発揮されない。
強い魔力で精度の低い結界か。
ふむ。
「ちょっとリン様!? なんでいきなり脱ぎだしたんですか!?」