魔王様はこの世界の住人です①
「ところでリン様。もしあのパーティから追放されていなかった場合、どれくらい彼らと行動を共にするつもりだったんですか?」
「えーっと多分……10年位?」
「じゅっ……じゅうねん!? それだけの期間戻ってこないつもりだったんですか!?」
「あーうそうそ、適当言った。順調にいけば6~7年くらいでカルガルカン程度なら倒せる程度までには育てられたハズ」
「大して変わりませんよ! 魔王として自覚ないんですか!?」
「あんまりないかも。ウチの領土運営現状なら実質オルバンがいれば回るものね。シエラかオルバンになら別に譲っても……」
「……」
「あー、ごめん。大丈夫だから。ちゃんと魔王続けるから。涙ぐまないでシエラちゃん」
「……泣いてないです」
「よしよし」
「泣いてないです! それに私もオルバンも魔王の座を継ぐ気なんて欠片もないですからね」
「知ってるわよ。だから冗談だってば」
オルバンはウチのメンバーの中で№2の実力を持つおじいちゃん。私に非常に甘く、今もほぼ丸投げ状態の領土運営を文句ひとつ言わず受け持ってくれている。ただトップに関しては以前冗談でそういう話を振った時に「この年になってトップとか勘弁してくれんか」ときっぱり断られている。
そしてシエラに関しては、私の部下でなくなるのはありえないと考えるくらい私の事が大好きだから、まぁ無理よね。
「あの、いつまで撫でてるんですか」
「イヤ?」
「イヤというか……いい大人がこんな街道のど真ん中で頭を撫でられてるのはさすがに」
「別にみてる人間なんていないじゃない」
そう、今私達は街と街を結ぶ街道を進んでいた。
シエラと合流した後、私たちは(とりあえず服を着替えてから)滞在していた街を早々に出た。シエラに急かされたからなんだけど、私としてもまぁしばらくはあのパーティーに近寄れない以上、あの街に残っている理由は何もなかったしね。
それで、今は隣町へと続く街道を二人で並んで歩いている感じ。
この世界、当然ファンタジーらしく自動車や電車なんてものはないので移動は基本的に徒歩なんだよね。
或いは馬車か馬というのもある。ただ長時間馬乗ってるのはそれはそれでお尻が疲れるし、馬車みたいなのはデカイ街同士しか繋いでなかったたりするし。
他にも高速移動する手段はあるけど疲れるので、まぁ急ぎじゃなければ結局は徒歩よね。
私としては、一度領地の自分の館に戻るにしても別に急ぎの用件が待っているわけではないから急いで帰る必要もないし、シエラにしたって結局は私の側にいられればいいわけだから、一緒に帰路にさえついていれば館に戻る事自体をそこまでは急かしはしない、
──うん可愛いなシエラ。今夜宿についたら存分に可愛がろ。あ、えっちな意味じゃないよ?
街の宿の薄っぺらい壁しかない場所でそういった事する気はないので。
それはさておき。
そういう訳で、徒歩でのんびりと進んでいるわけだ。
ちなみに恰好だけど私は普通に街で娘が着るような服。ちょっと素材は上質な奴だけどね。で、シエラはメイド姿のまま。
明らかに旅に合った格好ではないんだけど、まぁこれは私のせい。
この格好はシエラの制服のようなものとして、私の前で着用するように命じたものだからだ。
え、なんでメイド服なのかって?
趣味に決まってるじゃん。美人で自分に忠実な女の子とかいたらメイド服着せるでしょフツー。
ただ常時着用しなさいとは言ってないんだけどなぁ。こういう移動の時は動きやすい格好でもいいとはいってあるんだけど、シエラは基本真面目なので睡眠前後を除けば私の前では大体この格好である。
そのメイド服のシエラの頭からようやく私は手を放す。
あ、視線で手を追うんじゃありません。まだ撫でたくなっちゃうでしょ。
「ま、とにかく安心しなよシエラ。人材探しの旅は続けるけど今回みたいに一個のパーティにずっと引っ付くのは当面やる気がないから」
「本当ですか?」
「うん。正直一から育てて成長から結末までの物語を全部見られるってのは魅力的だとは思うんだけど、今回の一件でさすがにちょっと懲りたしね。それに、一個に張り付いちゃうと他の人材探しとかできないじゃない?」
「そうですね。部下に関しては増える所か情報すらも提供されてませんし」
「ごめんなさい。というわけで、しばらくは人材探し優先かなー。面白そうなパーティーとか見つけたらウォッチするけど」
「まぁ我々としてはリン様が適度に戻ってきてくださるのであれば、過剰に行動を縛るような事は申しません。貴方が魔王で法なのですから」
「うんうん今後はちゃんとシエラはこまめに構うからねー♪」
「そ、そういう事ではなく!」
こういうやりとりも久々だから、ついいじっちゃうなぁ。シエラの反応が可愛いのが悪い。