魔王様の帰省③
私としてはシェリーは勿論の事アヤネやフレイ達もウチの所属にさせる気はない(フレアは私とずっと一緒にいる気満々だけど)のであんまりウチの面子と深く交流する必要はないんだけど、しばらくは私と一緒に行動する以上さすがに幹部クラスとは顔を合せておいた方がいい。特にそのウチ一人は今後を考えて必須だ。
ただウチの支配下地域もそれなりの規模があり、幹部クラスの数名は各地に散らばっている。今ここにいる幹部級はオルバンとエリス、それにシエラを除けば、先の作戦に参加していた4人だ。
そしてその4人がエリスに呼ばれ、移動した先の応接室にやってきた。
「姫ぇ! 及びと聞いてはせ参じましたゴフゥ!?」
最初にやって来たのは20代半ばくらいの金髪の男だった。その男は勢いよく部屋に飛び込んでくるとそのまま私の方に突っ込んできて──私の前に飛び出してシエラの差し出した腕にセルフでラリアットをかました。
……なんか首がもげそうな勢いで突っ込んだけど、まぁ頑丈だし。フレアとかユキ、シェリーは思いっきり目を見開いて驚いているけど。
ちなみに突っ込んできた男はその勢いのままスライディングのような形になり、丁度私の眼前に滑り込んで来た。
私はその彼の前に腰を落として覗き込む。あ、ちなみに今日はスカートじゃないから覗き込まれる心配はないわよ? フレアとかはスカートだから近くに寄らせる訳にはいかないけど。
ま、彼がフレア達のスカートを覗きこむようなことはないだろうけど。
「大丈夫?」
白目をむいているわけでもないし痙攣をしているわけでもないから問題はないと思うけど、何故かこちらを見上げたまま動かないのでちょっとだけ、本当にちょっとだけ覗き込んで声をかけると、彼はグルんと凄まじい速度で体を回転させて身を起こし、私に抱き着いて来ようとして、
「ぐぇっ」
オルバンに襟元を掴まれて自身の勢いで首がしまったらしく、鈍い悲鳴を上げてぐったりする。その原因となったオルバンは男の方は全く気にする事もなく、眉をひそめて私に言う。
「嬢。ちゃんと自分で躱す事をしてくれんか」
「んー。今回ゼダはちゃんと仕事してくれたし、ハグくらいだったら良かったんだけど」
「駄目ですよ、ゼダはそういった事を許すと絶対に調子に乗りますから」
シエラが私の横に移動してから若干ぷんすこした雰囲気を纏った状態でそう言ってくる。嫉妬かしら? でもさっき私オルバンに抱き着いてるし、それを後でしったら男性──ゼダは怒りそうな気もするけど。
でも今の私の言葉でぐったりから速攻で回復し鼻を膨らませるのを見ちゃったら、ハグするのはいやよねぇ。ゼダ、見た目だけなら金髪碧眼のイケメンなのに、なんでそう行動が三枚目なのかしら?
んー、とりあえず。
「ゼダ、お座り」
「はっ!」
外見は完全に人間だけど犬系の種の系譜らしくて行動が犬っぽいのよね。だったらまぁ……私の指示に従ってお座り……というか跪いた体勢を取った彼の前に近寄ると、私は彼の頭に手を伸ばし柔らかい髪質の金髪に包まれた頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ありがとうね、ゼダ。今回は助かったわ」
「はっ! 有難きお言葉!」
イケメンの成人男性にする事ではないと思うのだけど、彼はこれをすごく喜ぶのよね。犬は撫でられるのが好きだと言われるけどそれと同じなのかしら。さすがに撫でるところまで犬と同じというわけじゃないみたいだけど。
とりあえず当人が満足そうなので、これでいいかしらね。あ、ちゃんと役目を果たしてくれた時にもちゃんと御礼は伝えてあるわよ?
──うちの幹部連中って、割と私の傘下に入った理由バラバラだったりするのよね。オルバンとシエラは二人とも私とタイマン勝負した結果私に負けて傘下に入るっている割と魔族ではオーソドックスな感じだったけど。ゼダの場合はなにやら私に一目ぼれしたらしいのよね。
今の所は男とそういう関係になる気はないわよ? ってちゃんと伝えたらそれでも構わないって躊躇わずに答えたから恋愛感情とは違うのかもしれないけれど。
まぁ気が付いたら他の面子もやってきているみたいだし、とにかくそろそろ本題に戻りましょうか。シェリーとユキ、アヤネもなんか状況についていけなくて呆然としてるし。フレアだけは目を輝かせてるけど。撫でて欲しいんだろうなぁ、アレ。