魔王様はパーティを追放されました①
ファンタジー系の小説で人気のジャンルに「追放物」という奴がある。
物語の冒頭で主人公が所属パーティや国などから追放され、その後実は追放した側が気づいていなかった強力な力を行使して成りあがっていく話が基本だ。
今、私はそれを実際に体験する羽目になっていた。
「お願いします。うちのパーティから抜けていただけませんでしょうか」
そう告げるリーダーのアローンには、そういった物語でよくみられるこちらをあざ笑ったり或いは見下すような表情は見えない。というか顔自体がそもそも見えてない。
うん。なんで土下座しているのかな?
呼び出されて向かった部屋、そこで待っていたパーティーの仲間である4人は私を部屋に招き入れると全員揃って床の上で土下座してきた。そして先程のセリフである。
流れがおかしくないかなー?
「とりあえず喋りづらいので立ってもらえません? リーダー」
それほど長い間ではないとはいえ一緒に旅してきた仲間のこういう姿は見たくなかったなぁと思いつつ、床に頭をこすりつけるようにして土下座している皆に声を掛ける。
彼らは頭を上げない。
「リィダぁ?」
今度はもう少し感情をこめて言ってみると、土下座×4が揃ってビクッと体を震わせた。そして慌てて全員が立ち上がる。
正直この反応で原因はなんとなく察しているんだけど、明らかに怯えが見えるリーダーに向けて精いっぱいの優し気な笑顔を浮かべて聞いてみる。
「それでリーダー、私がパーティから追放される理由を教えていただけますかしら?」
「いや、追放なんて、そんな」
「抜けてくれって、パーティ追放ですよね? 怒りませんからちゃんと理由を説明してくださいな」
もごもごはっきりしないリーダーに向けて、怒りの感情はこめないように、ただ強い調子で彼の言葉にかぶせるようにもう一度告げると彼は一度下を見て、そらから他の仲間達をみて、更にもう一度下をみてからようやくこちらに視線を向けて言った。
「その、もう限界なんです、いろいろと」
「なにがですかー?」
「なにがって! あなたが取ってくる仕事よ! ・・・・・・ですよ」
問い返す私に、リーダーの隣にたつソバカスの残る勝ち気そうな少女が声を荒げていう。
うん、それはいいけど何で最後言い直したのかな?パーティーメンバーなんだから遠慮しなくていいんだぞー?
「私のとってくる仕事に何か問題でも?」
「問題だらけでしょ! 私達まだデビューして一年足らずの駆け出しよ? なのに何でBランクやCランクの仕事取ってくるわけ……なんですか?」
「Aランクは自重してますよ?」
「BやCでも充分ヤバいのよ!毎回死にそうになってるじゃない……んですよ」
「でも死んでないじゃないですか」
「本当にギリギリのところでね……ですよ」
実際のところ本来の彼らの実力なら通常はEランク、背伸びをしてDランクが妥当な所なんだけど、そんな生ぬるい依頼をこなしててもなかなか成長しないしなー。
危機感なくなっちゃって必死さが無くなると意味ないから言ってないけど、ヤバそうな時は防御補助入れたりリジェネ入れたりして補助してるから実際はギリギリってこともないんだけど。
あと取ってつけたように言葉の最後に丁寧語つけてくるの、もうわざとやってるようにしか聞こえないんだけど。
まぁそれはいいか。私は唾が掛かるほど顔を近づけて興奮している彼女に対してにっこり笑みを返してから答える。
「ギリギリでもクリアできているんだから、それはあなた達に才能があるということですよ。それに依頼の件だけでパーティ追放なんてあんまりじゃありませんか? 私はパーティの事を考えて頑張って来たのに」
その私のセリフに、彼女ははっとした表情になるとなぜか顔を青ざめさせて元いた位置にスッと下がった。そして隣のリーダーの方へ視線を送る。と同時に他の二人が小さく後ろから背中を押すのが見えた。
その勢いで一歩私の方に踏み出した彼は、私の顔を見てごくりと唾を飲み込んでから意を決した顔で言った。
「あの。抜けてもらいたい理由はそれだけじゃないんです」
「はぁ。なんでしょうか?」
「だって、あの、貴女『変貌の魔王』リン……様ですよね?」