勇者
「またまた、蘭子さん御冗談を、ハハハハハッ」
二人がへらへらと笑いながら言うと、蘭子ちゃんは勇者の腕をとってナイフを突き立てた。
「あ、痛い」
「ごめんね、ちょっとサンプルもらうから、我慢して」
「蘭子さん、血がぼとぼと出ています」
「大丈夫、この子はすぐ治癒するから」
「それは異世界での話です、こっちでは転写されているものを使い切るとすぐに治らないのですが」
「大丈夫、死ぬような傷も治るって聞いているから、まだこっちに来てまもないから大丈夫なはず。はいOK。私は研究室に行くから後お願いね、唯。奥の宿泊室つかってもらって、それで食事はつけでカツ丼でもとってもらって。じゃサンプルが痛む前に処理するから行くね」
「お風呂は沸かしますか」
「三人に聞いて。じゃ」
まあ傷はどんどん治っていくが、人として大事なものを失っているような気がする。
「・・・・・・」
何か会話しないと。
「大丈夫ですか。見た目は治ったように見えますが」
「ええ治りましたね、でも無茶しないでくださいね、じっさい死ぬときは死ぬから」
2人も何か話さないと、そう思ったのか。
「で、そのカッコでここまでどうやって来たんですか」
「バスですね、おばあちゃんとかにジロジロみられているのでおかしなカッコなんだろうなってわかりましたが。しょうがないので」
「お金はどうしたんです」
「カンナズキ様にいただきました。ここまで来るのに必要な金額だけです」
「・・・で、魔王城ってどこにあるんですか」
「昔の江戸城です、こちらにもあるんじゃないですか」
あそこかよ
「じゃあ、あの家族は・・」
「二条城です」
ああ、そうか
「それで、勝ったんですよね、魔族に」
「負けました、あっさりと」
そこでアナスタシアが
「全世界一斉蜂起だったんですよ、それで戦力が足りない日本に私達が派遣されたんですけどね。本当ならそれほど強くないんですよ、そもそも詐欺師に毛が生えた程度だから、でもね」
アーノルドが続けて
「あんな散布の仕方したら魔族にも感染するから向こうも強くなったんだよ。結局、魔王が誕生したんだ。むこうにも風邪ひきやすいのがいたから」
日本以外は魔族がほぼ捕らえられたが日本だけほぼ無傷でしかも魔王が誕生したらしい。みゅー姫がスマホをアーノルドに見せて
「これ、こっちの世界のあなた」
「ああ、俺はこっちの世界でも戦っているんだな」
「・・・」
3人で顔を見合わせてアナスタシアの検索はやめた。
「じゃあ今日は疲れたでしょう、食べられないものありますか、特に豚肉と卵にコメの料理を予定しているのですが」
食べらないものは無いというのでカツ丼の大盛を頼んで、お風呂に入ってもらった。
「この量じゃ足りなくないかな、戦ってきたんだろうし、おなか減っているよね。
どうする、アーノルドさんはハンバーガーとかプロテインじゃないかな。たのんどくか蘭子ちゃんのおごりなんだし。でもボルシチはどっかあるかなウーバーで調べてみるか。まあカツ丼嫌いな人って見たこと無いし、とりあえず食わしとけばなんとかなるとは思うけど。
飲み物はアーノルドさんはコーラだよね、分かりやすい。で、ウオッカか、まだそんな歳じゃないよ、いやわからん、水かわりにいってるかもだし・・。
服は、アナちゃんは私達から何か差し入れするとして、アーノルドさんはうちのおやじのお古か、アメリカン好きだし。で茶坊主はそこらで子供服買ってもらうか。
アナちゃんと東京に服買いに行きたいんだけど、ああ分かる、明日行こうよ」
肝心のところにふれない会話をつづけた二人が帰ってしばらくすると蘭子ちゃんが帰って来た。
「すまん、迷惑かけたがいいサンプルがとれたよ、うまいこと液窒も隣の講座からもらえたし。三人は寝たのかい」
「ずっと反省会していますね。でもまあ犯罪遺伝子が無いと風呂も一緒に入れるし、同じ部屋で眠れるんですね」
「へんなことすると犯罪になるからな、それが無いから安心しているんだ。でいくらかかった」
「領収書です、つけが使えないところは立て替えておきました」
「う、食うなあ。まあいいかおやじに払わせよう、ほらよ、釣りはいらない」
「ちょうどいただきます。で、魔王が生まれたらしいですよ、無差別に散布したから」
「ああ、そうらしいな、メールが入ってたよ。これはまずいことになったな強さのインフレが止まらなくなるぞ」
「メールって、カンナズキさんからですか」
「いや、海外にも通路があってそこを管理してるこっち側の人が教えてくれたんだよ。かんかんに怒ってたよ。二人はこっち側のエージェントがアメリカとロシアから頃合いを見て帰すけど、茶坊主はどうするかな、とうぶん日本の通路は開けられないだろうし、しばらく小僧かな、寺じゃないけど。まあ遅くまでありがとう送って行こう」