不老不死
「誰も指導者がいないのも困るんだろうね」
「いないと誰かがなる、誰かがなるなら魔王でもいいんだ、優しい魔王ならよりいい」
蘭子はトランスポゾンでつぶれた魔法遺伝子を修復するためデザインした遺伝子と取り替える実験計画を書いて試薬を調合した。
「せっかく失活させた魔王の魔法遺伝子を復活させるとか、CIAや自衛隊に言えないもんな」
そう言うと、愛の魔王に魔法遺伝子を復活させることをそっと伝えて、しばらくして夜実験室に招き入れた。
「よく外出できましたね」
「もうポンコツだと思われています、体のサンプルをとりまくって検査をずっとしてましたが何も出ませんでしたから」
愛の魔王は苦笑いをしてうつむいた。
「心理テストもしたんでしたっけ?」
「ええ、結果は普通の人間ですよ。すべては、まあこれは言いづらいのですが、魔法遺伝子から来る一種の錯乱状態だろう、そう結論付けられました」
「まあ、それはないでしょう、魔法遺伝子から来るなら平行異世界のみんなは錯乱していることになるけど、そんなことはない」
「テロメア関係かも」
「それなら今も錯乱してないとダメですよ」
「ならば」
「治しましょう、錯乱状態になればまた潰しますから」
「こわいな、あなたの方が魔王に近いのでは」
「そうかもしれませんね」
「テロメアの発現方法を教えましょうか」
「何ですか急に、もしかして私を取り込もうとしていますか」
「いえ、たいした方法じゃないから今のうにち言っておこうかと思って」
「必要ありません、今の私は死ねなくなる方が恐怖ですよ。それに不老不死が一般化すると地球は人であふれて自滅してしまうから、これは禁呪です」
「なるほど、まあ宇宙旅行するのにいいと思うんですよ」
「えっ?それは思い付かなかった」
「さあヒントを教えましたよ。正解はいつでも聞いてください。一般化しなければいいんですよ公共の利益には帰さないですよ、こんなもん。誰もとがめだてしません」
「ええ、そのときはそうします。
これはちょっと痛いだけで死ぬわけではないから後からいくらでも聞くチャンスがありますからね」
「興味がわきましたね」
「ええ、でも自制心はあります。まずはもとに戻しましょう」
針を刺して薬液を注入しながら愛の魔王は呟いた。
「普通も悪くないかな」
みゅー姫たちと神々との話し合いについて語りあった。
「私が面倒見ますよ、愛の魔王は体つきもいいしトレーニングパートナーにもなるので」
「いいのかい、しおらしくはなっているがくせ者だよ。みゅー姫なら主治医にもなるしすごく助かるのだが」
「ええ大丈夫です、でも免許とれるのはもっと先ですけどね」
「まあ犯罪遺伝子は取り除いたから安心していいよ。不老不死を継続しながらヒールの復活ははたせたと思うから、へんに気持ちが落ち込んだりしないと思う」
みゅー姫に愛の魔王をあずけて次に蘭子はドラゴン達を硫黄島に追い立てた。
「もう帰ってくるなよ、あそこで仲間達と楽しく暮らせばいい。もう新種のトカゲと認知されたから人を襲わなければ保護されるだろう」
ドラゴン達は夜空に飛び立ち、数回旋回したのち南に向かって飛び去っていった。
「寂しくなりますね」
「ああ、あいつらがこっちにいると向こうの世界とこっちの世界との平行世界としての同一性が保てる。そんな気がする。そうすると行き来がしやすいままだ。こっちでは核兵器があるのに行き来ができているからそれほどシビアな判定ではないかもしれないが。あいつらがかすがいだよ。
もう向こうに変な動物はいないだろうな、作り出すのも面倒だ」
「これから大変ですね」
「トランスポゾンを取り除くのは簡単だったよ。それにテロメアを短くするのもそれほど難しくないだろう」
「神の意思に背くんじゃないですか」
「そんなことはないだろ、あの二人の意思には沿ってない部分もあるだろうが、二人とも神と言うよりは使徒だな。神はもっと上にいるよ、遺伝子をコードした神、遺伝子を作った神とか。だが、唯、お前の卒論テーマは変更だ、すぐにあれだと神にケンカ売ることになる」
「確かにそうですね、私も何となくわかります。でもテロメアまでの不老不死を確立したとして使わなければ良いのでは」
「確かに、結局運用のしかただよ、神に近い力、不老不死と身体強化、再生能力を持った悪魔が生まれる可能性がゼロにならなければテロメアを操る次のステップに移るべきじゃないのだろう。テロメアを発現させるなら、愛の戦士に近い勇者氏よりもストイックなアナスタシアの方がいいのか、逆なのか分からないから。犯罪遺伝子を取り除いてもごく少数の例外的な悪魔が支配すればあまり変わらないかもしれない。できるから最初にやってルールを決める、ではダメなような気がするだけだけどね」
「遺伝子研究では越えられない壁ですか」
「こんなところで哲学と同じ道に繋がるとはね。
私はしばらくしたら向こうの世界に行って答えを見つけることにするよ」
「私の卒論は?」
「それは見るよ、これを見てきたお前を後に据えるまでやる」
「蘭子さんは結婚はしないんですか」
「は?いや相手はいるよ、ステファニーさんの先生だ、あいつも向こうの研究に興味を持っている。なに、帰って来るよそれほどの差違はないだろうし、むしろ見つけやすい、すぐ終わる」




