不老不死
「私達は・・・・と言います」
「はい、ええっと、すみませんうまく聞き取れなくて」
「そうですか、いやすみません、この世界では、イナザミ、イナザギと呼ばれています」
「はあ、はい、神様ですね、存じ上げています」
「そういう分類かもしれませんね、あやしいと思っておられるかもしれませんが」
「いえ、唐突だったので驚いていますが、家は神社なのでお名前は知っています。それで、そうだとすると実験をとめに来たのですよね、違いますか」
「そう言うわけではありません、実験は続けていいのです、だた、あなた達が捕らえた愛の魔王を完全に殺してほしいのですよ、あまりにも可愛そうで」
「彼女は普通に生きてなにがしかの寿命で死んでいきますよ」
「あのものは死なないんですよ、魔法の次のサイレントジーンを見つけて解放したのですから」
「次のサイレントジーンはテロメアの長さを変わらなくするんですか」
「そうです、正確には長くしてから一定にするんですが、歳をとらなくなりますが、魔法を使えないとどんどん体が崩れていくのを黙って見ていなければならないんですよ」
「それは、むごいですね」
「愛の魔王は不老不死になるので、つまり神になるはずだったのですよ、私達みたいに。私達はもともと普通の人間でしたが、次のステップを見つけただけなんですけどね」
「彼女は神ではなく魔王になるのではありませんか」
「彼女が次のステップを見つけたときに私達は彼女に会いに行きました、彼女は他の二人を従わせて世界を平和に統治すると約束しました」
「いやしかしですね、私達は知らなくて」
「ハイそうです、分かっています。
昔々から私達はこの魔法を使えるようにした世界と使え無い世界を並べた平行異世界がどうなるか見てきました。古くはソドムとゴモラとして記録に残っている都市や中世のドラゴン伝説などは平行異世界を作った名残です。他にもたくさんあります。ただ今回は科学文明が進んだ世界が出来てしまって平行異世界へ大きな干渉をしました。本来はあちらの世界の王はあの人、愛の魔王なのですよ、予定ではね」
「余計なことをしてしまいましたか」
「ただこれも運命です。私達が干渉できるのはほんのわずかな部分です、別れた世界のどちらかに乗ってサイレントジーンの活性化と非活性化を続けていくんです。しかし今回は科学文明が発達したお陰で昔とは違う結果が出そうでして迷っています。向こう側は良い文明です、普通ならあっちに乗っかって続きをするんでしょうが、こちら側ではもっと高いレベルで魔法と科学が融合しそうで、期待しているのです」
「科学文明も悪くないですよ」
「そうですね、しかし向こうの世界に強い指導者を置かずに交流出来なくなると向こうの世界は無茶苦茶になります」
「交流できないとは?」
「あなたも気づいているでしょう、だんだんと平行異世界では無くなっていることに。二つの世界に相似点がなくなると距離が出来て入り口が閉じていきます」
「そうすると、もう行けないし帰ってこられないと」
「はい、でも文明の交流があるので意外とまだしっかりと繋がっているんですよね」
「あなた方は正しい結論を知っているんですか」
「魔法から不老不死に繋げる方法を幾つか知っていますよ、そのうちのひとつを解明したのが愛の魔王でした」
「教えて下さい」
「それは出来ませんよ、愛の魔王がなにも語らなかったように語ってはダメなのです。理詰めではうまく行きませんよ、それが出来たらこんな遠回しな方法はとっていません。自然に見つけてそれを遡及するんです、ひとの目的や決意なんかはそうやって醸成されるものです。これが成功体験者の私達が導けることです」
「そうですか、未来に一定の方向性があるなら愛の魔王にヒールをかけ続けますよ、それなら四肢の欠損などはなく健康に不老不死ができるでしょう」
「あなた達に命を握られたまま永遠に平凡に生きていくのですか?」
「最終的に向こうに帰りますが、従者となる誰かにヒールをお任せすることになるでしょう。それほど悪くないでしょう。なんならトランスポゾンを入れた部分の遺伝子を正常なものに取り替えてもいい」
「そうですか、あなたは私達の常識の外にいらっしゃるようだ。でも出来なかった時のために火不老不死になった人の殺しかたを教えておきましょう。すべての遺伝子を分子レベルまで焼きつくして下さいね、今のあなたのパーティなら出来ます。少しても残っているとその部分が生きて行くのです、肉片として意識をもって」
二人と別れた後に唯と話し合った。
「そんなことできませんよ、炭にするとか」
「勇者氏と我々のコンボを使えといっているんだろうけど、さすがにね。戦いの流れの中ならあるいはやってしまったかもしれないけど。でも今は大人しくしているし、出来ないよ」
「寿命って大切なんですね。死なないことの方が怖いって概念がなかったですよ」
「何とかして普通の体に戻してやろう」




