ヒール
結局日程通りの卒業旅行に付き合った蘭子であったがどこに行ったかも覚えてない状態で日本に帰って来た。そして数日たったのだが。
「どうしました、私の顔に何かついていますか」
「勇者氏はロン毛になったんだね」
「いやだな、蘭子氏、私はいつまでも子供じゃないんですよ」
ロン毛におしゃれ髭をはやした勇者がこちらの世界に来ていた。
「並行異世界では命を狙われるから急遽こちらに来ましたよ」
「うん、むこうでアーノルド氏はどうなっているの」
「アーノルド氏は行方知れず、ですが北米の不特定の地域で魔力が増加しているんですよね。北米にいるのは確かなんですが、場所までは分からない、ってところですよ」
「勇者氏は招集されるんじゃないの」
「いんやぁ、私はもう用済みっすよ。アメリカが本気出したから、むこうの英雄や勇者が招集っすね」
「そうっすか、アナスタシアさんはどうなったの」
「アナスタシアさんはこっちのソ連、つまりロシアに逃げたみたいだけど、ロシアから出られないみたいっすね」
「めんどくさいところに逃げたね」
「みたいっすね、冬を待って流氷に乗って北海道に渡るって言っていましたね、おっとこれはオフレコでお願いしますよ」
「もちろん、それで勇者氏は逃げてきただけなのかな」
「新規武器の開発を手伝え、と指令があります。むこうの帝国陸軍からの指令です、明日の朝に防衛省の総務戦闘課に着任する予定ですよ」
「なんだよそのヘンテコな部署は。しかし勇者氏は並行異世界では軍隊に所属してるのか。頑張ってね」
「ん、着任した後は蘭子先生の開発支援に入りますよ、もしかして聞いていませんか」
「いやいや、私はまだ学生ですから」
「そうですか、助教になると聞いていましたが」
「いやあ、まだ学位審査の予備審査も受けてないし、それは無いよ」
あくる日、蘭子は大学から帰ってくると唯たちが神社でダラダラしていたのだが。
「4月から助教になるわ」
「へえ、結構簡単なんですね、蘭子博士爆誕ですね」
「学位はこれから一年かけてとるんだけどね」
「ふーん、難しいシステムですね」
「総長に呼ばれて、君に人類の未来がかかっている、とか言われてさ。断ったら学位とったら准教授にしてやるって。さらに総長は、みんな中退なんて気にしないよ、私の年齢だとポストがあると中退して飛びつくから、そういう連中がたくさんいるから、って笑ってたわ」
「教授会とか文科省どうなっているんです」
「知らんよ、だがなんか知らんがデカい力を感じる」
その後、勇者氏が来た。
「いやあ結局、不自然な名称ですよね、って言ったら、防衛研究所の所属になりました。蘭子先生の命令に従えとのことです」
「そうかい、まあ4月までは情報収集たのむわ、こっちのCIAがアーノルド氏の情報集めているから、予算は魔王一括、正式名称は、予想不可能な生物戦に対する初動的研究、で10億あるから、かなり自由に使えるけど監査はあるからね」
「大丈夫ですよ、むこうの大蔵省で刷って持って来て古銭として売るっていう裏技を教えてもらっていますから」
「だからやめろよ、バレるから」
「同じだから分かりませんて」
「こっちは大気中で核実験しているから紙調べると14Cの割合が多いからバレるって」
「それ以前の札ですよね、分かっていますよ」
「いやいつの札すれるのか分からんがダメだよマジで、金はあるから」
「そうですか、残念だな」
「勇者氏は犯罪遺伝子除去しているのじゃないの」
「いやこれは犯罪じゃなくてテクニックの一つなので、犯罪とは考えていません」
新学期をむかえた。
「新学期そうそう悪いのだが唯たち、うちでバイトしてくれないかな」
「どんなバイトですか給料によりますが」
「長くなるのでそこは省くが、論文を読んで不自然に論理が飛躍しているのとかを洗い出して欲しいのだ」
「あやしいな、アーノルド氏関係ですか。はっきり教えてくださいよ」
「いいのか長いぞ、
アーノルド氏が使っていた部屋で採取したDNAを調べた結果がCIAから送られてきた。塩基配列を調べるとサイレントの魔法遺伝子が幾重にも重複しているから、どうもゲノム編集しているな、となっていて。だがこっちの技術では出来ないことが多くて、これはどうもむこうの技術をこっちでやっていると思われる。だとすると、こっちの誰がやったか知りたいのだが、その期間の足取りが分からないのだよ。まだゴリマッチョになっていないので見ている人も似ている人だ、ぐらいの認識しかなく、みな覚えていない。だがただやるだけではこっちの研究者は美味しくない、ゲノム編集した後で自分の研究として一部を発表しているはずなんだ、そういう生き物だよ研究者は」
「いやな生き物ですね」
「だがダイレクトにそのまま人を使った論文を出せないよ、出どころがアレだし、オリジナルとも言えないからさ。だが何がしか痕跡がある」
「調べるのは良いとして、もうコソ泥どころじゃない本物の魔王ですよ、資金援助だけして知らんぷりしましょう、日本人らしく」
「もう金もらっている側なのだよ、私は」




