ヒール
翌日
「CIAからお呼びがかかったから行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、私達はモントレーに行ってシーフード食べてきます」
蘭子はそっけない態度にすこしムッとした。
「あのね、アーノルドさんがむこうの世界に行ったとしてもむこうのチェックがあるのですぐに治療を受けられないのでこちらで治療してはどうかということになって、私が治療することになったよ」
「そうですか、がんばって下さい」
「みゅー姫は気になるよね?」
「えっ、フィッシャーマンズワーフのシーフードは気になりますね、アシカも」
「いや、ヒール、とか使うんだけど」
「ああ、ヒールはいつでも使えますが、シーフードとアシカは一期一会ですから」
「あ、そう。しかしアーノルドさんがすぐに帰りたいとか言い出すとはな」
「うんうん。ところでタクシーと飛行機だとどっちが早いか知りませんか」
「飛行機じゃないかな」
CIAのエージェントと落ち合うと車に乗せられてグルグル街中を回った後、ドーム状の施設に到着した。ここが並行異世界との通路がある場所で、すでにアーノルドさんは通路に来ているからそこに行ってほしいと言われて通路にむかった。
「やあアーノルドさん」
「お、おう、蘭子さんじゃないか」
「あなたにプレゼントだよ」
「何をもらえるんだい」
蘭子が祈るとヒールが発動した。
「受け取ってもらったかな」
「なんだい、魔法、とか言わないよな」
「そう魔法だよ」
アーノルドは自分の体の中を探るような仕草をすると、指先に小さな炎をともした。
「本当だ、そちらから送られた魔力で小さな炎を作ることができた、すごいぞ、お前はこっちの世界で魔法を発動できるのか」
「・・なんで炎を作れたんですか、経験が無いと作れないと思うんだが」
「そうだな、経験があるんだよ、むこうから来ているからな」
「いや、あなたはこっちの世界のアーノルドでは」
「そんなことは無い初めからむこうの世界のアーノルドだよ」
「じゃあ、心臓病ってのは」
「無いよ、私は健康体だ」
「では、こっちの世界のアーノルドは」
「家で寝ているんじゃないか」
場がざわついて、数名のCIA職員はアーノルドに連絡をとるためドームの外に出た。
「ウソつかなくともむこうに行けるよ」
「私はウソをつけないよ、犯罪遺伝子を除去したから」
「完璧な演技ならごまかせるそうですけど」
「そうなのか、知らなかったよ」
Ms加藤が、こちらのアーノルドさんに連絡がとれません、今回の並行異世界への転移は中止します。そういうとアーノルドは渋い顔をして
「おい、何言っているんだ、今日帰ることが出来ることを楽しみにしていたのに、いい加減にしろ」
「アーノルドさん怒りましたね」
「これは演技だよ、今教えてくれただろ」
Ms加藤が繰り返し、今回の転移は中止します、そういうと。
「おい蘭子、お前どうやって魔法を発動しているんだ、教えろ」
「そんなこと出来ませんって、とにかく今日は大人しくしてください」
「馬鹿野郎、俺は帰るぞ」
皆で制止するように通路をふさぐと
「殺してやる」
そういうと火球を作って通路をふさいでいるCIA職員に投げつけた。背広に火が付いて必死に消そうとしている職員の脇をすり抜けてアーノルドは通路に飛び込んだ。
「何がおこったんですか、こっちの世界のアーノルドが並行異世界で心臓病を治すためにむこうの世界のアーノルドに成りすましていたのでは」
Ms加藤は
「どうやら本物だったみたいですね」
メールを受け取りその内容を読み
「こっちの世界のアーノルドさんはどうやら暴漢に襲われて病院にいるそうです。
おそらく犯罪遺伝子の除去を行ったのはこっちの世界のアーノルドさんだったみたいです」
「しかしウソをついたことになりますよ」
「そうですね、すこし調べてみないと」
職員が何人か並行異世界に知らせに行くため通路に飛び込んでいった。
「むこうでは分が悪いでしょう、全遺伝子持っているアーノルドさんは魔王ですよ」
「知らんふりは出来ませんから」
「ヒールは他の魔法と違って術をかけた相手の遺伝子を活性化させるので指先の炎は分かりますが、最後の威力のある火球は」
「とにかく想定外ですからなんとも、こちらに来てからスタントマンをやるまでのあいだを洗いなおさないと、何か隠して行っているのは間違いありません」
「私も向こうに行きます」
「いえダメです、一度整理します。むこうのエージェントには申し訳ないのですが、知らせる以外、私達に出来ることはありません」
「私は一度日本に帰ります」
蘭子は電話をして、唯たちをのこして日本に帰ることにした。
「あ、お父さん、大変なことになった。魔王が犯罪遺伝子を持ったまま並行異世界に帰って行った。詳しいことは帰ったら話すから、山の通路を閉鎖してくれないかな。その前にカンナズキさんに私達がしていたことを誰にも言わないように言っておいてくれないかな。そして身を隠すように、そう、勇者君も知っているから勇者君も」




