召喚
「さあさ、食べなさい、飲みなさい、ちょっと買いすぎたので遠慮むようです」
ザッハトルテとフロッケンザーネをダブルで食べる幸せ・・
「ところで、今度いつうちの山登るのかな」
山を所有、しているわけないか、でも分からん歴史のありそうな神社だし。
「あ、とうぶんないですね、夏になるとデブにはきついので。しかし古い神社ですね、山の社務所も古いんですか」
「どちらかと言うと山が先でここが後かな。途中立て替えているけど1000年以上の歴史があるんですよね、特に山には異世界に通じる門があって知らずに山に入った人が神隠しにあったりするのが頻発していたので、それを管理するために当時の偉い人が神社を建てたとかなんとか」
「ぶほっ」
すこし吹いてしまった
「大丈夫、さあさあ、お茶飲んで。
でもこの手のはなし好きそうだね。家に伝わる古文書に、むかしむかしに死んだ神様のイザナミが別世界にまだ生きていてイザナギに会ったり、こっちの世界で必要な物とか人を調達したり、またその反対に持ってくるための通路があの山にあるそうな。
めでたし、めでたし」
「ガチですかそれ、古文書って」
「まあ古文書は火事で焼けてなくなったけどね。でもさすがに神隠しは無いけどむこうの世界に一瞬行った、って人は最近増えたんだよね。・・あれ、何か思い当たることあるのかな」
「あっ、ああ、私も鳥居をくぐったときに一瞬そんな感じがしました。でもイザナミではなくお笑い芸人のような名前だったと思いましたが」
「ん~、それは、もう一回行くべきだね、うん。何かもらえるかも、で、もらったら私に見せて」
軽い人だな、だが今度の休みに行く約束をしてしまった、ケーキをごちそうになったし。
「毎週山に登ってバイトして大学って大丈夫なんですか」
「大丈夫、大丈夫、休日だし、むしろこっちが本業だから、ハハハッ」
まあいいか、モンブランももらったし。
家に帰って、巫女さんに会って一緒に山行く約束した、と言うと母が
「あら蘭子ちゃんに会って約束したの、気を付けて行ってらっしゃい」
「蘭子ちゃんって、母さん知ってたのかな」
「そこの神社の娘さんでしょ、あなたも初詣で何回か会っているでしょうに」
これで、大事な一人娘を危ない登山に行かせません、作戦が使えなくなった。まあこの人たちは積極的に危ない橋を渡らせる派だろうが。
登山当日、蘭子ちゃんと一緒に前回よりも早い時間に家を出た、蘭子ちゃんのバイトの時間に間に合わせるためだ。登山口の終点までバスに乗って体力を温存しながら鳥居の前まで来た。
「さあ一歩踏み出してみて、さあ、さあ、異世界への一歩を」
「蘭子さん、はしゃぎすぎ。でも何もないんじゃないかな。前回のも今考えるとほんとにあったのかどうか分からないし」
そういうと蘭子ちゃんは私の腕をつかんで前に一歩出た。
「蘭子さんお疲れ様です、唯さんをよく連れて来てくれました」
以前見た空間に、カンナズキちゃん、こんな簡単に来れるんだ。しかし蘭子ちゃん、グルかよ。
「唯ちゃん、すまん、どうしても連れてこいと言われて、それに君にとってもいいことがあるはずだし」
どうも何か弱みを握られているようだ、修論にかんするとかなんとか言ってるし。カンナズキちゃんはすこし頭がいたそうに眉間にしわをよせながら
「前回もらったサンプルの調子がすごく良かったのですが、あなた以外からもらった方がすこし傷んでいたのでやり直したいのです、本当にもうしわけない。ここにはあまり若い男が来ないのでしょうがなくとったのですが、このまえ小学生の団体が遠足で来ていたので性格の良さそうなのからとれたからそれでやり直したいのですよ」
「蘭子さんのではダメなのですか。なんかすごい仲良さそうに見えますが」
「蘭子さんからはもうたくさんもらっているのですよ、その先祖からも。それにあまり勇敢な感じがないので今回は別の人からと、そういうことです」
さあどうぞ、と大股を広げるとまた光に包まれた。議論するよりもさっさとすませなさいよ、と言ったスタンスであったが。
「ああ、これですよ、この潔さ。勇気がありますね。はい、サンプルがとれました、ありがとうございます。ではお礼ですが・・
〇いくら食べてもそれほど太らなくする遺伝子の解放
〇そこそこ勉強するだけでそこそこの成績になる遺伝子の解放
〇まあまあの努力でそこそこの運動能力がはっきされる遺伝子の解放
どれにします」
まったくどれもこれもあいまいな表現でわからん。蘭子ちゃんに聞くと勉強はまあまあ使えるようなので解放してもらった。
「ところで私のサンプルはどう使われるのですか」
「増やした後で必要な部分を取り出してレトロウイルスに入れてそれをエンベロープでくるんで、いわゆる風邪のような感じで感染させようと思っています。まずは人口の10%ぐらいまで。タンデムで入ると勇者とか出ちゃうかな、なんて少し期待しちゃいますけど。ああこれは知らなくてもいいですね。あとは世代を重ねて行けばいいかなと」