召喚
私、吉田唯は日本のごく普通の女子中学生で趣味は食べること、小学生の時は親に連れられて山に登ったりしたが最近は疲れるので誘われても断っている、なんといっても友達と遊んでいるのが楽しい。
あるとき久しぶりに山に誘われたのでなんとなくついて行くことにした。あまり高くはないいわゆる低山に属するその山はロープウエイで山頂直下まで登れるのだがうちの両親は海抜0メーターから徒歩で登るのにこだわっているのでそこそこ疲れる。海抜0メーターと言っても高度計では40メーター付近をさしているのだが、それにこだわって、わざわざバスを登山口手前で降りて歩いて行く、歩いて行く。子供のころはコンビニのあるあたりから歩くので色々買ってもらえるのがうれしかったのだが、もうそんな歳ではない。しばらく登ると本来の登山口である神社の鳥居があるのだが、すでに疲労が、私はもう若くないのだ。
鳥居をくぐると階段が続く、なんて意地悪な階段だ、すでにゼエゼエと息が苦しい。足をとめて水を飲みながら目を閉じるとなんとなくいい匂いがして頭がふらふらと気持ちよく、これがランナーズハイなのか、そう思って目を見開くと私は広い石作りの地下室のような場所にいた。私は、エッ?と言ったか言わなかったか忘れたが、そんなリアクションをしていたと思うのだが。私を取り囲む神主風の人達が
「よーーし、よし、若い女性だ、成功した。この妙な服は異世界から来たものに間違いない」
口々にセリフっぽいことをしゃべっているので壮大ないたずら番組かと思っていた。ここはよくテレビの取材とかが来る場所なのでテレビクルーとかを探してまわりを見回したが、いない。うまく隠れているのだなと思っていると。代表の女が話しかけてきた。
「私は、カンナズキ、あなたを私達の世界に召喚しました。違う時間軸ですがあなたの世界の100年から200年後の文明レベルぐらいですか、すこし協力してもらえれば元の時間に戻って何事も無くすごすことが出来ます」
私はこの壮大ないたずらに乗ることにした。
「ああ、そうですか、では何をすればよいのでしょう。教えてもらえますか」
カンナズキさんは、これは話が早い、と言って説明をはじめた。
「私達の時間軸では生命反応を極限まで追求してしまった結果、その当時余計な遺伝子と考えられていた犯罪にかかわる遺伝子をすべて削除してしまったのです。それによって遺伝子に起因する犯罪はほぼ無くなったのですが、そのかわり犯罪の遺伝子に組み込まれていた勇敢さなども失ってしまい、社会的な発展が停滞してしまったのです。そしてさらに・・
ところであなたの世界でそこら辺のところは勉強されていますか」
中学の理科で遺伝子について少し習ったな、ぐらいだったので
「いえいえ、そんな詳しくはありません、遺伝子の二重螺旋ぐらい習いました」
カンナズキさんは、ああそれでは説明はこれぐらいにしておきましょう、と言って
「つまりあなたの遺伝子のサンプルが欲しいのですよ、もちろんあなたを傷つけるようなことはしません少しそこに立っていてもらえれば、そう、そのように」
そういうと私は一瞬光に包まれた。きょとんとしていると
「ありがとうございます、感謝します。では元の世界にもどしますね、目を閉じてください」
気付くと水筒を持ちながら階段に立っていた。両親はちょっと先で立ち止まって、体力落ちたな昔は私達の前を走って登って行ったのに、と言って笑っていた。テレビクルーは、いない、なんというか、何だったのかな、疑問を抱えてそのまま山を登って行った。
トレッキングポールにしがみつくように山頂に到達すると天気も良く低山ではあるが田園風景が綺麗に見渡せて、来てよかった、と思った。お弁当を食べてしばらく休んだあと下山しようとすると山頂の神社のお守り売り場から巫女さんが語りかけてきた。
「そこのあなた、登山の記念にお札はいかがですか、今なら100円です」
両親は、そちらから話しかけてくるのははじめてだね、と言いながら3人分のお札を買って300円はらった。厄除けもセットなのでと人型の紙に住所と名前を書いて置いて行った。だるくなった体に鞭打ちながら家に帰ってお風呂にはいって鏡で体を見たが傷らしきものはない、足にマメと靴ずれはあるがこれではないだろう。しばらくして気付いたが生理がこない、でもこれはたまにあるのでなんとも言えない、激しい運動をしたせいかもしれない。
一か月ほどたって異世界っぽいところに行ったことも忘れかけていたころ、学校から帰る途中に女性から呼び止められた。
「ああ、こんにちは・・覚えていないかな。山頂の神社で巫女をしていたんですが。家に近いんですね」
巫女さんだった。現代風の服装なのでまったく気付かなかった、巫女の恰好ならすぐ気づいただろうが。週末にバイトで山頂の巫女をやっているらしい、実家は近くの神社で、大学生だという、私はもうしばらく山に登りません、と言うと。
「実家の神社はすぐそこなので遊びにきなよ、ケーキも買ったし」
いくことにした。