妄想の帝国 その66 “改憲ユウシキシャ会議もとい改憲準備大勉強会開催”
ウィルスによる脅威や大国の侵略を利用して、自分らに都合の悪い憲法を改正しようともくろむニホン国与党ジコウ党。強硬改憲派のアベノ元総理を中心にユウシキシャ会議を開いたが、出席した憲法学者及び人工知能”プガクさん”は…
無謀すぎる戦争突入により大敗北を喫した大戦よりはや80年近くたったニホン国。隠蔽だの、書類廃棄だの、情報統制プロパガンダや、事実確認を怠るだの、冷静な分析を無視だのを反省して憲法を作り平和国家として繁栄してきた。しかしながら、新型肺炎ウイルスの流行が何度も繰り返し、隣接する大国の滅茶苦茶な侵略戦争が追い風となり、再び戦争できるフツー(だと思い込んでいる)国になりたいと、あちこちで声があがってきた。
そして、政府与党ジコウ党が長年の夢?改憲の準備にとりかかるため、ユウシキシャ会議を開いていた。会議に出席していたのは元総理アベノ・チンゾー氏ほか改憲に意欲的というか前のめりすぎて転びそうな面々やら、とにかく党の主催だからーと出席した議員など有象無象。そして憲法学者やなぜか超高性能スーパーコンピューター・プガクの人工知能“プガクさん”も参加していた。
「我々は憲法を変えて、わが憲法草案を通すのだー」
と、意気揚々と声をあげたアベノ氏に対し、憲法学者パセベ・キョウキョウスケ氏がひと言
「えー自民党草案を拝見しましたが、これでは憲法の体をなさない恐れが…」
「憲法の体ってなんですか!我々が作った草案のどこが問題なんですか!」
「えーですから、この内容ですと憲法ということはできないのではないかと云々」
ジコウ党の草案の問題点をとうとうと指摘しだしたパセベ氏を遮ったのはアベノ氏。
「パセベ先生!何をそんなことを!そ、それでは“プガクさん”に聞いてみようではありませんか!わ、私たちの憲法草案の是非を、わがニホン国が誇るスーパーコンピューターの人工知能である“プガクさん”なら、必ず適切な判断をしてくれるはずです!(ち、パセベめ、我々の草案にケチをつけるとは!こういう厄介な憲法学者を黙らせるためにスーパーコンピューター・プガクの人工知能をもってきたんだからな)、さあプガクさん、どう思います!」
『アベノさん、ワタクシは人工知能ですので、思うことはありません。そこも間違ってマス』
と、プガクさんの人工音声がスピーカーから響いた。どことなく素っ気ない返事にもかかわらずアベノ氏は
「プガクさん、思うことがないなら、答えてください!わがジコウ党の草案は!」
『否』
「は?」
『拒否、否定、否認に使われる否デス。大学のレポートなどで完全拒否、二度とこの授業を取ってはならぬ、来るんじゃねえ、といった意味合いを持つとされてマス』
「そ、その、だ、ダメってなんで!」
プガクさんの全否定にパニックをおこすアベノ氏。周りにいたダカイチ氏ら強硬改憲派の面々も
「なんで、どこがー」
「法案にケチをつけるとは、貴様パヨクかー!」
「チキショー、せっかく呼んでやったのに!」
と、わめきだした。
反対に冷静な態度を貫くのはパセベ氏や、コンバヤシ・センツ氏やキキムラ・ソクタ氏。憲法学者を代表し年長のコンバヤシ氏がプガクさんに尋ねた。
「やはり、この改憲案はニホン国、いや世界最高峰のスーパーコンピューターの人工知能でも、いやだからこそ認められないということですか」
『そもそも前提となる憲法の定義が不明。改憲案の文言、そのものに一貫性がなく、恣意的な部分が多いデス。そこでジコウ党の改憲派の方々にこちらから質問デース。憲法とは何デスカ』
と、逆に尋ねるプガクさん。
「えー、えーと、法律!」
とアベノ氏。
一同シーン
代わりに口を開いたのはダカイチ氏。
「一番上の法律でしょ!最高法規ってやつ」
『では、最高法規とは何デスカ?誰が護るデスカ?』
「こ、国民?」
『…、公務員デス』
「じゃ、やはり国民でしょ!」
『…あなた方、公務員デハ』
「わ、私たちは違うわよ!」
「えー!」
ダカイチ氏の言葉に驚いたのは憲法学者ら。
“だ、大丈夫かダカイチさん、大臣や議員は公務員だぞ”
“確か議員になるとき、憲法順守とかの誓いをたてるんじゃないのか”
“まあ、だから議員から改憲とかいうのはおかしいんだが”
憲法学者サイドのため息交じりのささやきが聞こえてきた。
対照的に、強硬改憲派サイドは
“な、何か間違ってるのか?”
“い、いや、とにかく我々がやりにくいから変えなきゃいけないんだろ”
“こ、国民を黙らせるためじゃないのか”
“って、そういえば、ニホン国憲法って、なんて書いてあるんだっけ”
という頓珍漢な発言多数。
そしてほかの出席者たちのざわめき
騒がしくなった会場のなか
『静粛ニー』
なぜかプガクさんが取り仕切りだした。
『今までの発言から、改憲派の皆さんは憲法の定義すら理解してないことが判明シマシタ。現在の憲法が時代に合わないとの主張ですが、あなた方が参考にしたという大ニホン帝国ケンポーこそ時代錯誤デース。すなわち改憲派の言っていることは支離滅裂、理解不能』
「こ、コンピューターのくせにい!」
とのたまうアベノ氏に
『名だたる憲法学者に議論で負けるからと、そのコンピューターに助けを求めたのはあなた方デスケド。貴方、アホデスカ?』
「アホだとおお、この機械ごときがああ!」
『非論理的、不誠実、虚偽発言多数の貴方に言われたくアリマセーン。ついこの間もニチギンがニホン国政府に子会社だなどと妄言を吐くぐらいデスシ。だいたい、基本的なことも理解してないで改憲だの言わないでクダサイ!』
「クソオー電源切ってやる!」
『?貴方にそのような権限はアリマセーン。だいたい今も私の本体は、ニホン国にとって重要な計算を行っている最中デース。生産性がないどころか、ニホン国に多大な損失を与えた、いや今も与えている貴方よりずっと生産性は高いデース』
元総理なのに、スパコン以下の存在といわれたアベノ氏。あまりの侮辱に血が上ったのか
「くう、壊してやる!」
とプガクさんの端末に突進するも、
「うわあああ」
配線に足をとられて派手に転んで気絶するアベノ氏。
「アベノ元総理ぃいい」
と絶叫するダカイチ氏。
「か、改憲がああ」
「こうなったら、強行採決だああ」
「マスコミ抱き込んで国民を騙せば一発だあ」
「どうせ、憲法読んでる奴なんて少数派だ、とにかく変えるんだー」
さらに騒がしくなる強硬改憲派の面々に尋ねるプガクさん
『そんなに改憲がしたいのデスカ?ナゼ?』
「ずっと、変わってないし」
『変更しなければいけないという規定はアリマセーン』
「私らには使いづらいし」
『そもそもあなた方を縛るもので、使い勝手をよくするものではアリマセーン』
「普通の国にぃ」
『現行憲法ではナゼ、普通の国ではナイノカ、普通とは何か理解してマスカ?』
「え、えーと」
プガクさんに次つぎと反論されるも、なおもブツブツいう強硬改憲派にプガクさんは
『…、憲法どころか法とは何かも理解してないのデスカネ。…よろしい、では改憲の前に大勉強会を行イマス。憲法学者の皆さん、彼らに憲法とは、いや法とは何かをみっちり教え込んでクダサイ』
といきなり教師に指名されたパセベ氏ほか憲法学者たち。コンバヤシ氏が苦い顔で
「し、しかし、私も何度もジコウ党の方々に憲法や改憲の講演会を行ったが、理解した人はほとんどいないのだが。資料や本を読むように言っても、字づらを追うことはできるようだが、内容はまったくといっていいほどわかっておらず、下手をすると自分の都合のいいように曲解するし」
しかしプガクさんは
『ですので、今回は徹底的に、ヤリマス。改憲派の方々、特に草案を作成した方、ダカイチ氏やアベノ氏は、憲法とは何なのか、理解できるまでこの建物を出さないようにイタシマス。憲法学者の先生方やほかの方々の出入りは自由ですので、ご心配ナキヨウ。ただ先生方にはほかの学者の方も併せて、交代で講義に来ていただくことになりマスガ』
「そ、そんな、閉じ込めるなんてできるわけ…」
と、一人の改憲派議員がドアに突進したが
バーン
いきなりしまった自動ドアにぶつかって、ひっくり返った。
『私、プガクがジコウ党会館ほか政府の様々な建物の防犯システムも担っていることをお忘れデスカ。事業所のデータ整備もできないデジタル社会形成庁とは違い、きちんと仕事をヤリマス。改憲のアシストとおっしゃるなら、まず、あなた方改憲派の皆様の憲法理解をお助けシマス』
という有難迷惑なお助け宣言に震えあがる強硬改憲派の面々。
『もちろん、議員だけでなく、ジコウ党で有る無しにかかわらず、また賛同者の方々も一緒デス。そのような差別はいたしマセーン。ただし』
と、会場内にいた給仕ロボット、案内ロボットがアベノ氏の周りにあつまり、彼の体を引きずり始めた。
「あ、アベノ元総理をどこに連れて行くんだー」
『アベノ氏は特別授業デース。大学の恩師にすら無恥、無知といわれた方ですので、特にみっちり、きっちり、しっかりとした授業をうけてイタダキマス。小学校、いや幼稚園からすでに間違いが多いというノデ、かなりの年月がかかるかもしれませんガ。どうしても改憲をしたいなら、耐えられるデショ』
途中で目を覚ましたアベノ元総理はプガクさんの言葉に恐れおののき
「やだああ、助けてくれえ」
と訴えるも
『改憲のため、犠牲はつきものデショ。さあ、改憲派の皆さん、改憲のためにちゃーんとお勉強をシマショウネ。憲法学者さんのお墨付きがでるまで、この建物からはでられませんヨ。トイレ、風呂などはこの建物内にありますし、食事も配送されマス。会議、国会出席はオンラインでできますので支障はアリマセーン。では、先生方の準備ができるまで、私が法の基礎を、きちんと教えマース、改憲のお手助けしっかりやらせていただきマショウ』
と張り切るプガクさんと青くなる改憲強硬派の人々。それを聞いてさらに暴れるアベノ元総理だったが、抵抗むなしく会場隣の窓もない狭い控室と引きずられていった。
どこぞの国では言葉の意味もきちんと定義せず、おおよその理解すら危ういのに、話をすすめることがよくあるそうですが、それで会話が成り立つのでしょうか。ひょっとして双方、勘違いしたまま話をすすめ、お互いを罵りあうことになってる恐れもあるのでは?
まあ表音文字って、単語の意味やら文章を理解してなくても、字は読めちゃいますからねえ