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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
三章 シュガー・ダンジョン

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第58話

「……」


 スイーツ・ダンジョン最深部。100階層。その豪華な広間を白いスーツを着た男がのんびりと歩く。その顔は兎をモチーフにした仮面により隠されていた。


「そろそろ…という感じか」


 手に持った「なにか」に少しだけ視線を向けながら男は歩き続ける。


「さて、「今回」はどうなることやら……」


 そしてその部屋の奥にひっそりと設置されていた小さな事務所の前で男は足を止めた。


「おい…まさか……」


 男がゆっくりとドアを開く。その内部では1人の少女が「スマートフォン」に似た端末機器を手に取りダラダラと転がっていた。


「おおん…?おおっ!?ミスターKじゃないか!?久しぶりだなぁ!!」


「あ~……」


 兎仮面の男は少しだけ頭に手を当てながら目の前の少女を見つめる。真っ白な髪に白い瞳。全体的に白が目立つ少女だが、頭部に生えた二つの立派な角だけは深紅に光り輝いていた。


「なんというか…その…なんだ?言いたい事はいろいろとあるのだが…とりあえずこの話からにしようか。…おまえ、ちゃんと仕事してる?」


「もちろんしてるぞ~」


 そんな神秘的な雰囲気を台無しにするかのように少女は甘未を口にしながらゴロゴロとしていた。その視線は既にミスターKと呼ばれた男から手元の小型端末へと戻っていた。


「そのサブ端末で表示される情報には限りがあると前に伝えておいたはずだな?おまえ、メインモニターを定期的にチェックしていないだろ?…まさか緊急通知アラートをうるさいからとかいう理由でOFFにしたりしていないだろうな?いや、流石にそこまでの阿呆ではないと私も信じたいところではあるが」


「えっ…!?あ…あ~…大丈夫大丈夫!何かあっても最終兵器のミルフィーが待機してる。あの子ならちゃんと仕事もしてくれるし問題無しだ」

 

「……」

 

 その姿を見て男は再び頭を抱える。男はこの「スイーツ・ダンジョン」に所属している者ではない。言うならばビジネスパートナーとも言うべき存在だ。そんな男が自分から少女の事務所へと顔を出し、やや遠回しではあるが警告とアドバイスを送っている。その異常事態に白い少女はまったく気が付いていなかった。


「そうか…それで?「デス4」のランクマは順調か?」


「おお~!今バフを積みまくって相手を嵌めてる最中……んむ?」


 その言葉を聞いた直後、ガシッ!という音と共に男は白い少女を巨大な「メインモニター」の前へと優しくぶん投げていた。


「ふぎゃ…!?」


「おまえは阿呆か何かか?侵入者が来てるのに呑気にゲームをやってるラスボスがどこの世界に存在する?私自らの手で今直ぐにミンチに加工される前にメインモニターを確認する事をオススメしておこう」


「痛たたた…いったい何だっていうんだ……て…げげっ!?」


 モニターの情報を見た少女の表情が青ざめていく。それも当然。モニターには4体の侵入者の恐るべき情報が表示されていたからだ。


「む…?……4体?……一人ではないのか?」


 驚きの声は白い少女だけではなかった。兎仮面の男もまた、白い少女とは別の理由で声を出していた。


「いやいやいや!!こいつら単独でも絶対にヤバいやつらだろう!?全員が全員「危険判定度」SSS以上…いや、あの黒い小娘はひょっとして私に近い実力者なんじゃ……」


「ほう。人を見る「目」は良いみたいだな。そこだけは褒めておこう。だが、おまえが本当に警戒しなければいけない相手は別だ」


「別だぁ…?しっかし警戒と言ったってな……全員ヤバいだろこれ?」


 白色の少女こと、シュガーの目の前には猛スピードでダンジョンを侵略する3体の魔物の姿と99階層の人間の姿が表示されていた。



「マスター!!今行きますよおおおお!!」


「…今日はご馳走パーティー」


「次は50階層だ!たぶん中ボスが待機しているぞ。気を抜くなよ二人とも!」


「「おー!!」」



「何なんだこいつらは……」


「ふむ。随分と仲が良いようだな…あの少女達は」


 シュガーの瞳が3体のモンスターから99階層の様子へと移る。



「早い話、生きるか死ぬのかお前が選べというやつだ。何もおかしな事は言っていないはずだけどな?」


「おかしい事だらけよ!あんたも「言霊」に詳しいのなら分かるでしょ!?恐怖心で人を縛っても本当の信頼関係は結べない!そんな事はあんたのような異常者でも理解できるでしょ!?」


「「信頼?」…ああ、別のそういうのは必要ないな」


「はぁ…?」


「ごちゃごちゃと深く考えるなよ。シンプルに行こうぜ。俺はあんた自身の口から「その言葉」を聞きたいだけなんだ。…焼肉になるか、それともこっち側に来るのか1分で決めろ。はい、よ~いスタート」


「は…はぁ!?」


「1…2…3……」


「わ、分かったわよ!!転職!転職するわよ!!だから殺さないで!!」


「ああ…その言葉が聞きたかった。よし、そんじゃ色々と話してもらおうか?」



 そこには味方であるはずの妖精「ミルフィー」と一人の青年が話し込んでいる姿が表示されていた。

 

「なっ…!?ミルフィーのやつ…裏切りやがったな……」


「意外だな。先にミルフィーを懐柔したのか」


 ボイルされたロブスターのように真っ赤な顔になるシュガー。それとは対照的に興味深そうな雰囲気で男はモニター越しの青年を観察していた。


「強制的に従っているわけではなさそうだ。…どんな材料を使ったのか非常に気になるところだが…まあ今はこっちが優先か」


「さて、シュガー。どうする?このままだとおまえは5体の怪物を相手にする事になると思うが?」


「むぅ……」


 シュガーが悩む。少女は強い。だが、それは同格の相手が2体か3体までの話だ。5体も同時に相手をするとなると、どうなるのかは本人にも分からない。


「…ミスターK。どどど、どうすればいいと思う?」


 悩んだ末、少女は自身よりも強いと確信している男に意見を求めた。


「このままだと本気でヤバいから力を貸して欲しい!!私一人じゃ絶対無理だから!!」


「ふむ……」


 男は悩む。助けるか助けないか。男の選択次第で文字通り「運命」が変わる。それでも手を貸すだけの「価値」がこの少女にあるのか。それを男は自問自答する。

 

「…いいだろう。条件付きでいいのなら、私が手を貸してやる」


「ヤバいよ~…このままだと私はたぶんバラ肉に……て…え?本当に!?」


 きょとんとした顔でシュガーが兎仮面の男を見つめる。


「一週間だけでいい。マジメに仕事をして溜まった「案件」を片付けろ。それが約束できるのなら少しだけ手伝ってやる」


「おお!やっぱりお前は頼れるやつだな!!よし!お前さえ居れば勝利はこっちのものも同然だ!!」


「阿呆、あくまで「主役」はおまえだ。…いや、「おまえ」と「あの青年」でないとダメなんだ。…私はあくまで通行人K。物語を回す為の舞台装置に過ぎない。そういうのは「今」を生きるお前たちの役目だ」


「…??」


「さてと、それじゃあ少しだけ状況を変えるとしよう」


 疑問符を顔に浮かべるシュガーを尻目に早速ミスターKが行動を起こす。緩めたネクタイを締め直し仮面を深く被り直す。これは男が「仕事モード」に入るときの癖のようなものだ。


「順風満帆で気分はノリノリ。有頂天になっているやつの前に絶対に勝ち目のない強敵が立ちはだかる。どこかで聞いたことがあるようなありふれた展開ではあるが、そういう脚本も偶には悪くないだろ」


「いや、二人掛かりで倒せばいいだろ?私とお前なら楽勝じゃないか」


「ダメだな。おまえは何も分かっていない。一方的でワンパターンな戦いなんぞ面白くもなんともない。互いの手札も切り札も全部使い切った後の泥仕合。それを私は見たいんだ」


「お前、ときどき妙にシチュエーションに拘るときがあるよな~……」


 ヤバいやつを見る目でシュガーは男を見ていた。


「舞台には相応しい時、相応しい場所、相応しい役者というものが必要だ。実を言うとだな…この状況は流石に反則だと私も思ってはいたんだ」


「50階層付近の3体の侵入者は全部「私」が受け持とう。おまえは安心してあの青年がここに来るのを待ってるといい」


「それでこそ、「ダンジョン」の「ラスボス戦」として相応しい展開だ」

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