第53話「行き止まり 1」
「ココア…!緊急事態…!緊急事態発生だ!!」
「……」
「…えっと…どういう事です?」
スイーツ・ダンジョン 50階層 「カフェテリア」その階層の中央部。そこでは完全武装状態の女性が通信端末を片手に戸惑いの声を上げていた。捻じれた角に太い尻尾。燃えるような真っ赤な髪。綺麗に仕立てられたそのメイド服には似合わない程の巨大な剣を背負いつつ女性は通話を続ける。
「良く聴けココア!ヤバい魔物3体が猛スピードでそっちに向ってる!たぶん「階層の壁」をブチ壊し、ダンジョンの「ルール」も無視して「一直線」にな!!なんとか時間稼ぎをしてくれ!!」
「なるほど…確かに緊急事態ですね……」
女性の耳に鏡が壊れるときにも似た音が微かに聞こえ始める。
「分かりました。出来るだけやってみます…」
「頼んだぞ!強力な助っ人もそっちに向ってる!なんとか持ちこたえるんだ!!」
「……」
通話が終わる。それから直ぐに感じる天井の違和感。躊躇う事無くその場から飛び上がり全ての魔力を右腕に「集中」させる。
「一人だけでも道連れにしないとダメよね…ああヤダな~…特別手当かボーナスでも付かないとやってられないわ……」
天井が割れる。中から出てくる者達を赤い少女、ココアが視認する。巨大な黒い竜の両肩には2体の兎型の魔物達。
「この竜だけは…潰す!!」
ココアの右腕が真っ赤に燃え上がる。
「___‘オーバーヒート・ブロー!!‘」
「んおっ…!?」
防御を捨てた捨て身の攻撃が黒龍の頭部にめり込みその体をダンジョン左側の壁際へと吹き飛ばす。
「っ…!?」
直後に振るわれた首筋を正確に切断する死の斬撃を避け、背後から放たれた巨大な植物の拳に体を吹き飛ばされながらもココアは体勢を立て直し剣を抜く。眼前には真っ赤な瞳をした危険なウサギが2体。栗色の髪をしたウサギのハンドサインを見た白いウサギがゆっくりと頷く。そして挟撃を狙うかのようにゆっくりとココアを囲みながら距離を詰め始める。
「…どうする?」
「私が突っ込みます。タイミングを計って「アレ」を相手にブチ込んでください。短期決戦は避けて持久戦で行きましょう」
「…分かった」
「…っ!!」
前面から繰り出される真っ当な暴力。そして背面からジワジワと打ち込まれる「毒物」がココアの体力を確実に奪っていった。
「ぐっ…あなた達…中々…強いじゃない……」
満身創痍状態のココアが地面に片膝を付く。そのメイド服はボロボロの状態に。武器や武装も全て破壊され魔力も完全に枯渇している。それでもココアは中ボスとしての意地の為に限界を超えて立ち上がろうとしていた。
「まだ動けるんですか。凄い生命力ですね」
油断なく驕りなく、端的かつ速やかにラビが歩き始める。
「…ハア…ハア……」
ココアは地面に刺さった剣に寄りかかるので精一杯だ。その様子を冷静に分析しながらラビは壁際でダウンしていたクロの元へと向かう。
「クロ。…クロ?……頭が完全に捥げちゃってるんですけど……生きてますか?」
「んお…?あ…ああ!?すまんすまん。凄いのをモロに喰らって完全に意識が飛んでいたぞ……」
「ひ…っ!?あれをブチ込まれてまだ生きてるんですか…相変わらず凄い耐久力ですね」
「だろう?とりあえず首を胴体の所まで持って来てくれないか?切断面にくっつければ数分で何とかなる」
「分かりました。クラリア。見張りをお願いします」
「…分かった」
のんびりと談笑しつつも3体の魔物の視線はココアから外れない。そして確実に止めを刺す為に3体は歩き続ける。
「……」
「……」
ココアの手前までラビが歩み寄る。
「あなたは強い。私達が勝てたのは「数の暴力」という手札があったからです」
「…ふん。…そういうのも全て含めて戦いよ。……あなた達の勝ち。そして私は負けた。すべきことをしなさい」
「そうですね。私達には譲れない目的があります。それを阻むと言うのなら…誰であろうと始末するだけです」
ラビが躊躇わずに剣を振るう。
「ぐ……」
ラビの剣が強敵の首を跳ねようと迫る。
「悪いね。ここでその子に死なれるとちょっとだけ困る」
だが、その剣が首元に届く事はなかった。
「っ…!?」
ラビの剣。それを突然目の前に現れた乱入者が木材一振りで弾き返す。見た目よりも遥かに重い一撃に堪らず剣を落としてしまうラビ。
「……何者ですか?」
痺れ続ける右腕には目もくれず、兎の仮面を付けた怪しい男から視線を離さずにラビがそう問いかける。それに怯む事も無く兎仮面の男は簡素な自己紹介を始めた。
「初めまして…とでも言うべきかな。兎人族のお嬢ちゃん。私の事はミスターKとでも呼んでくれ」




