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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
二章 ブラッド・バケーション

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第46話 エピローグ

「…ふざけんなよ。定時連絡の時間をもう5分も過ぎてんじゃねえか」


 デスクの上の缶コーヒーをいじりつつ、男が1人愚痴をこぼす。


(おかしい。あの女は殺し屋の中では常識があるタイプの人間だ。何か問題でも起きたのか?)


 この男、佐々木は裏稼業に身を置く者の一人だ。質の悪い殺し屋の場合、時間にルーズな場合というのは少なくないが、今回男が雇った殺し屋はプロ中のプロだ。時間に几帳面なプロの殺し屋が5分以上も連絡が遅れるというのは珍しいことだった。


「成金のガキを1人沈めるのに何をチンタラしてんだか」


 微糖のコーヒーを口に流しつつ手元の資料を確認する佐々木。そこには「金本大助」という男に関する調査報告が書き込まれていた。


「ふん。最近の経歴以外全て不明か。どうせこいつもろくでもない人間だろ」


(最近になっていきなり大金が口座に振り込まれてやがるからな。たんまりとタンス預金をしてる可能性もあるか……)


「口座と本人に関する情報さえ分かればあとはどこぞの「変身系」の「能力者」に「依頼」して金を引き出しちまえばいい。本人さえ消えればいくらでも方法なんてあるからな」


 佐々木の手口は手慣れたものだ。表で不動産を経営し「カモ」を見つける。そして裏では金の力で「カモ」の金を奪う。闇不動産の常套手段だ。


「「裏」の人間は叩けば埃が出るやつばかりだ。ガキが3憶の預金なんて生意気なんだよ。どうせろくでもない方法で稼いだ金だろうしな。この金は俺が有用に使ってやるから安心して熱海の海に沈んでくれ」


 佐々木が吉報を待っていると、ようやく待ち望んでいた相手から呼び出しの通知が掛かる。スマートフォンの画面には「クソ殺し屋」という着信者が表示されている。間違いなく佐々木が今回の依頼を任せた相手だ。応答ボタンを押しスマートフォンを耳に押し当てる。


「もしもし?てめえ約束の時間を10分も過ぎてんじゃねえか。ちゃんとガキは始末したんだろうな?」


 佐々木の口から次々と罵倒の言葉が吐き出される。この業界は舐められたら終わりなのだ。必然的にその言葉や口調も強いものになる。


「聞いてんのか~?てめえふざけてると契約不履行で依頼金払わねえぞ!?さっさと現状について報告しろ!!」


 ヒートアップしていく佐々木。だがそんな男の表情は一瞬で凍り付く事になる。


「Good evening!!ラブコールの時間だぜ♡」


「……はぁ?」


 陽気な声に佐々木の思考が停止する。


(この声は、ま、まさか!?)


「…か、金本大助!?なんでこの番号からお前の声が!?」


「あ~…やっぱり「依頼者」はあんただったか。まあ家を買ったときの表情から何かやらかすだろうな~とは思ってたんだけど」


「ぐっ…!?」


 予想外の事態に佐々木は混乱する。


(クソッ!どうなってやがるんだ!?まさかあの殺し屋が俺を裏切りやがったのか?)


「あんたからの素敵なサプライズには感動したよ。死ぬほど堪能させて貰った。それと、あんたのお友達は海水浴を楽しんでる真っ最中だよ。いや、魚の餌になっている可能性もあるか」


「…ぐぅ……」


「そんな愉快なあんたに俺からもサプライズプレゼントがあるんだ。素敵な夜のお裾分けってやつだな」


「…何が言いたい?」


「ゲームをしよう。今夜のあんたは哀れな一匹のウサギさんだ。そして悪~いウサギさんをおしおきするために、とっても強いウサギさんがそっちに向ってる。さあ、哀れな極悪ウサギはどうなってしまうのでしょうか?」


「なっ…!?て、てめえ…!?」


 それはつまり、佐々木が殺し屋を使ったように、金本大助も殺し屋を佐々木の居場所に送り込んだという事だ。


「今夜限定の緊急イベントだ。生き残れた場合の報酬はそうだな~…あんた自身の命だな」


「……はぁ?」


「さあ、見せてくれよ。あんたの命の輝きってやつを」


 その言葉を最後に通話は途切れた。


「……なんなんだよおい!?」


 パニックになりそうな気持をギリギリで抑えつつ、佐々木がデスクの引き出しから一丁の黒い拳銃を取り出す。拳銃に「エネルギー」を流し込みつつ能力で生成した特殊な弾丸を4つ弾倉に込めていく。


「殺し屋上等だこの野郎。かかってこいよ…全員ブチ殺してやる」


 佐々木自身も何度か「裏」の人間とトラブルになった事もある。知識も機転も効く優秀な男だ。


 ___そんな男だからこそ、一瞬で理解してしまう事がある。


「そうですか。そんな覚悟があるのなら問題ないですよね?」


「…っ」


 ポンッと、小さな手が佐々木の肩に置かれる。佐々木は振り返る事ができない。


 ___振り返ればその瞬間に殺される。それを男は理解していた。


(俺は、何を間違えちまったんだ?)


 佐々木の脳裏を一瞬で過ぎていく走馬灯。男の人生は順調だった。そう、金本大助という男に関わるまでは。奇妙な男だったのだ。濁った瞳。軽快ながらもやけに重みがこもった声。思い返してみれば、金本大助は佐々木という男の本性を一瞬で見抜いていたのかも知れないと思い至る。記憶の中の金本大助は、いつも佐々木の目をジッと見ていたのだから。


「佐々木一郎さんですね?」


「初めまして。そしてさようなら。私の名前を知る必要はありません」


 ___振り抜かれる一閃の刃。


 ___佐々木の最後に見た光景。


 ___それは、ドロドロに濁った真っ赤な瞳で佐々木の瞳を覗き込むウサギのような姿の少女だけだった。

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