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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
二章 ブラッド・バケーション

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第40話

 大助と女の膠着状態が続く。だがその状況を壊すかのような声が両者の耳に届いた。


「マスタ~…!?流石に今の行動は酷いんじゃないか!?私は動く盾じゃないんだぞ!!」


「…っ!?」


「……」


 足元に転がっていたクロの頭部を持ちあげる大助。


「おまえ首チョンパされたのに生きてんのか?」


「もちろんだ!竜の生命力を舐めて貰っては困るぞ!」


「……」


(そういえば戦闘不能の通知がアプリに届いていなかったな。…余計な情報をペラペラと口頭で喋りやがって……)


 首だけの状態のクロがギャンギャンと大助に文句を伝える。それは敵対する女からすれば異常過ぎる光景だ。


「…まいったな……」


 面倒な事になったと大助が少しだけ悩む。大助の当初の予定ではクロをこの時点で退場させる事を考えていたのだ。


(クロは連携や情報戦には向いていない。限定された状況で最大限の火力を出せる状況を用意する必要がある。計画の練り直しが必要だ)


「悪かったな。だが事前に伝えてただろう?お前を「酷使」する事になるかもしれないと。その言葉通りの状況になっただけだ」


「む~!」


「…分かった。出血大サービスだ。帰りに40万円以内で好きなだけ魚を買ってやる」


「んむむ!?も…もう一押しされたら許すかもしれないぞ…?」


「釣った魚をその場で食べられる究極の釣り堀に招待する事を約束しよう」


「それなら許すしかないな!」


 クロは気づかない。大助がクロの命を40万円程度にしか考えていないことを。


「ちっ……話は終わったか?」


 面倒そうな顔つきの女が大助に問いかける。


「そうだな。…あともう少しってところかな」


 大助が女に視線を向けつつ答える。


「……」


「……」


 両者共に戦いの準備は整っている。あとはタイミングだけだ。大助はあえて隙を見せる事で攻撃を待っている。そして女は必殺の機会を待っている。


「クロ。計画変更だ。後でメッセージを送るからスマホは手放すなよ___‘カタバミ‘」


「マスター!?」


 キーワードの詠唱と共にクロの首と体は指定の場所に転送された。


(この結界は俺だけを対象にする事で強化されている。だがそれは俺以外にはザル状態になっているという事だ。まったく面倒な「技」を使いやがって。転移草の残り使用回数は3回。それまでに仕留められるといいんだが)


「ふっ!!」


「おっと…!?」


 右からの打突を避け、流れるように振るわれる回転左肘をブロック。勢いを殺さずに繰り出そうとしていた前蹴りを右足でカットする大助。


「ちっ…!」


 左右と大助の頭部を狙ったフックの連撃をリズムよく躱し、回転蹴りが振るわれる前に1歩距離を詰め足を掴んで押し返す。


「___‘風刃‘」


「単調だな!!」


 距離が空けば飛び道具を使うだろうと予測していた大助。後ろには下がらず前に出る。ピストルの形状を取ろうとしていた女の右腕を左側に蹴りつけ能力の発動を阻害。不完全な形で放たれた暴風が海面を叩き割った。


「なっ!?」


(なる程。やっぱ遠距離攻撃で威力を出すために特定の「動き」か「詠唱」を条件にしてるタイプか)


「ふっ…!!」


 大助の右ストーレートが放たれる。そしてコンマ1秒で振るわれる追撃の肘打ち。体勢を変えずに打ち込まれる膝蹴り。


「ほう…」


 殺意100%の3連撃。そしてその攻撃を当然のように女は全て受けきっていた。


「はっ…単調だな」


(こいつ、本命を膝蹴りだと先に当を付けてガードしてやがったな。それ以外は致命傷にならないと完全に理解していた動きだ。…予想以上のやり手だな)


「いいね~…素晴らしい。これは本格的に楽しめそうだな」


「ふん。それなら脳みそが茹ったまま地獄に落ちろ」


「「ふっ!!」」


 ぐぐぐっと互いの腕に力を入れ拮抗状態に突入する大助と女。ゼロ距離でのクリンチ一歩手前の状態。猛獣のような表情を浮かべた二人の視線が交差する。


(いいね~…飢えた野獣のような剥き出しの殺意。ゾクゾクしちまうよ。だが…まだ足りない。もっともっと…おかしくならなきゃダメなんだ)


「そんなに焦んなよ。まだまだパーティーは始まったばかりだろ?」


「ちっ…イカレ野郎がペラペラと…!」


(ここだと埒が明かない。場所を変える必要があるな)


「だったらもっと面白いものを見せてやるよ!」


「…っ!?」


 頭突きで女の体勢を崩しスカイアッパーで顎を狙う大助。だがその攻撃も防がれる。ここまでは大助の予想通りの展開だ。


「___‘エノコログサ‘」


 一瞬の内に景色が切り替わる。そこはサンビーチ近郊のホテル屋上。大助が事前に転移草を仕込んでおいた場所だ。これで転移草の残り使用回数は2回。こうなると大助も使用には慎重になる。


(クロを飛ばせた事で分かってはいたが、結界内部の転移なら俺でも可能か。結界術の強さはそこまで高くないな。能力が強化されている様子もないし「異界化」もしてない。「制約」の内容もそうだが本当に俺を市街地から逃がさない為だけに展開してるな)


「ふん。随分と面白い小道具を持ってるみたいだなっ…!!」


「やべっ…!?」


 近距離で抜かれたシースナイフ特有の音。それに反応した大助がスウェーで刺突を回避する。


(早いな。獲物は…ダマスカスの大型ナイフか。良い趣味をしている。刃物の扱いも達人レベルっぽいな。…素手だとちょっと厳しいか)


「終わりだ…!」


 回避後の硬直を狙っていた女が必殺の一撃を大助に叩き込む。


「抜いたな?」


 これを同じく得物を抜いた大助が弾き返す。共に人間の限界を超えた人外の一撃。その余波だけで鉄筋コンクリートの床にヒビが入る。大助が手にした得物。それを見た女から再び本音の言葉が漏れた。


「……十手だと?」


「ああ。刃物はあまり好みじゃないんでね」


 長さ約45cm程度の武骨な鉄の棒。江戸時代、犯人を殺さず生け捕りにするために振るわれた対悪党用の護身武器。そして金本大助が愛用する武器の1つだ。

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