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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
二章 ブラッド・バケーション

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第36話

「いいねいいね~。こういうのは久々の感覚だ」


 前傾姿勢でクロの背中に掴まりつつ大助がそう呟く。ここは上空300メートル。凄まじい風圧や雑音が大助の耳に押し寄せる。


「んはははは!マスター!!こっちの方角でいいのか~!?」


「ん~?」


 巨大な背中越しに方向を確認する大助。


「ああ。そのまま真っすぐに飛んでくれ。道に関しては適宜指示するから余計な事は何も考えなくていいぞ。お前はただ真っすぐに飛べばいいからな」


「分かった!」


 クロの飛行速度が上がる。それに合わせて大助も身に纏う魔力の出力を上げた。


(魔力ってのは凄えよな。全身に展開するとあっと言う間に防護服の代わりになる)


 大助が軽装で上空300メートルに耐えている理由がそれだ。大助が使用している魔法は「強化」。基礎的な魔法ではあるが、大助はこの魔法を驚異的なレベルで習得していた。


「なあマスター?本当に私達の姿は誰にも見えてないのか~?」


「ああ。ただし5分間だけだけどな。…そろそろ時間だな。ほら口を開けろ」


「んおお。ちょっとだけ恥ずかしいんだが。…んああ~」


 大きく開かれた口に特殊な草を投入する。ムシャムシャと咀嚼を始めたのを確認してから大助も同じ草を口に含む。


「…うげ」


(透明草。効果時間と定期的な補給は面倒だがかなり使えるな)


 大助が食べている透明草。これはフリーマーケット経由で入手した物だ。在庫処分キャンペーンとして出品されていたその草の値段は10個セットで1万コイン。透明になるという効果を考えると破格とも言える値段だ。


「…うぐ。…マスター。やっぱりこの草不味いぞ」


「まあ、確かにクソ不味いよなこれ」


 大助が吐き気を堪えながらも無理やり胃袋に流し込む。この強烈なレベルのマズさがこの草の最大のデメリットなのだ。


(失敗したかなこりゃ。片道20分と考えると4つ消費して4000コインか。公共交通機関の値段とそんなに変わらないような気もするな)


「マスター、こんなクソ不味い草を食べるくらいなら新幹線とか乗った方が良かったんじゃないか?」


「ぬっ!?珍しく正論を言いやがるな…」


 どう返答したものかと大助は考えた。


「いいんだよこれで。無駄。非合理。暇つぶし。それでこそ人生というものだ」


「んおお。やっぱり人間が考える事はおかしな事ばかりだな」


「ああ。俺もそう思うよ」


 クロの長い尻尾がブンブンと横に振られる。


(ほんとこいつ分かり易いよな)


 質の良いコミュニケーションのサンプルになる。大助はクロの愚直な素直さに感謝していた。


 

 20分後。飛行中のクロの背中越しに景色が見えてくる。広い海、そしてその場所をぐるっと囲む数多くの観光ホテル。今回の目的地、熱海市に到着したのだ。


「クロ。ストップストップ。目的地に着いたぞ」


「んお?」


 クロの背中を軽くバシバシと叩き飛行を停止させる。


「ここで降りればいいのか?」


「いや、ちょっと待ってくれ。…そうだな」


(今後の事を考えると転移草をどこかに設置しておきたい。かと言って数もそんなに多くはない。分かり易くて目立つ場所と言えば…あそこがベストか)


「よし。クロ、あの熱海城に向ってくれ」


「んん?どこだか分からないぞ?」


「……」


(そうか。お助けモンスターは現代の知識をある程度持ってるが、こういう細かい情報に関しては知らないんだったな)


「ああっと、右前方に大きくて白い立派な城が見えるだろ?あれが有名な「熱海城」ってやつだ。そこの天守閣に向ってくれ」


「了解だ!」


 熱海城上空に到着した大助とクロ。


(人気は無いな。まあこんな時間だしな)


「よし。そんじゃ行きますか」


 クロの背中から屋上の天守閣に飛び降りる大助。手早くシャチホコの下に転移草を仕込んでいく。


「マスター。何やってるんだ?」


 人間形態に変化したクロが興味深そうに作業中の大助を覗き込む。


「ん~まああれだ。保険とでも言えばいいのか…」


「?」


 全てを説明する気など大助にはない。適当で曖昧な言葉をチョイスしつつクロの疑問を捌いていく。


「…よし。こんなもんか」


 ぐぐっと背中を伸ばす大助。強力な接着剤で固定した転移草はそう易々と剥がれる事はないだろう。これで大助は新しい転移ポイントを得たという事だ。


「おお~…良い景色だな~」


「ん?」


 クロは天守閣から一望できるその絶景に魅了されていた。


「…ああ。こういうのを絶景って言うんだろうな」


(春に見れる桜景色や冬の雪化粧ってのも悪くないんだが、真夏に見えるこの緑の景色もいいもんだ)


 微かに遠くから聞こえる渚の音。熱海市街、そして房総半島を一望できる場所としてここは一番の名所だ。初めてこの場所に訪れた者はその圧倒的な展望に心を奪われることだろう。


「なあなあ!あの右側に見える大きな島は何て言う名前なんだ?」


「伊豆半島だ。あそこは釣りの名所だからな。美味い魚がたくさん釣れるぞ」


「本当か!?」


「ああ。…そうだな。遠くはないし帰りに寄ってみるか?」


「絶対行くぞ!よ~し!たくさん乱獲してやる!!」


「それはダメだ。…10匹ぐらいで我慢しておけ」


「え~」


 あ~でもこ~でもないと、他愛のない会話が続いていた。

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