第34話
「いいねいいね~…良い匂いがしてきたなぁクロ?」
「んおおお!美味そうだ~!!」
翌日、巨大なフライパンを片手に庭で料理をする大助。その姿を楽しそうに覗き込むクロ。その口元からはダラダラと涎がこぼれていた。
「まさかこんな巨大な卵を焼く日が来るとはな…」
事の始まりは30分前、クロが突然巨大な卵をお土産だと大助に押し付けてきた事から始まる。これは面白そうだと判断した大助が巨大な調理器具をフリーマーケットで購入。実験も兼ねて庭で巨大卵を焼いているという状況だ。
「それで?この卵いったい何なんだ?」
「えっ?…いや…まあ…レアな卵だな。…そう!とってもレアな卵なんだぞ!!」
(なんか隠してる感じの顔だな…)
規格外のサイズの目玉焼きを作りながらそんな事を考える大助。
(まあどんな事情があろうとも構わないさ。それもそれで面白いというやつだ)
「…ふむ……この火力ならあともう少しってところか」
「お~♪んお~♪んおお~~♪」
それから3分程で卵の黄身はこんがりと焼き上がる。巨大な目玉焼きの完成だ。
「よし。できたぞ。そんじゃこいつを2つに分けてと…」
大助がヘラを使い器用に目玉焼きを2つに分割する。
「右側は俺のものだ。おまえは左側な」
「了解だ!」
「OKだ。さて、ご飯と醤油の準備も完了と…」
皿に目玉焼きを乗せ合掌する大助。
「なあマスター。なんで人間は食事の前に手を合わせるんだ?」
「ん?」
クロの率直な疑問に視線を向ける大助。
「そうだな…元々は食料への感謝という側面が強かったみたいだが、現代ではその辺りの意識は薄れているのが現状だ。昔から行われている風変りな習慣みたいなものと考えていいだろう」
「おお。つまりは儀式みたいなものか」
「そういう事だな」
大助が再び両手を合わせる。それを真似てクロも両手を合わせた。
「「いただきます」」
もぐもぐと咀嚼を始める大助。
(…お?確かになんか新鮮な感じがするな。ジューシーというか何というか)
「どうだマスター?美味しいか?」
「ん?そうだな~…かなり美味しいと俺は思うぞ。少なくとも市販の卵よりも新鮮で美味だ」
「お~!!そうかそうか!それは嬉しいな。私も生んだ甲斐があった」
「………なに?」
クロの不穏な言葉を聞いた大助の手がピタリと止まる。
「その…なんだ?マスターが美味しい美味しいと私の卵を食べていると思うと、こうお腹がキュッとしてくるな」
んきゃーとでも言いそうな表情で首を振り出すクロ。その顔を唖然とした顔で見返す大助。
「…え?……はぁ?」
(新手の嫌がらせか?…いや、これはそういう表情じゃない。これは自分の行動を善意だと心から信じているやつ特有の顔だ)
理解不能な行動。そして何故顔を赤らめているのかも理解不能。未確認生物を見るかのような目でクロをジッと観察する大助。
「あ~…つまり何だ?おまえが普通に産んだ卵を普通に持って来たという事だな?」
「その通りだ。「魔力」は過剰に体内で蓄積しておくと「毒」だからな。定期的に卵という形で対外に排出してるんだ。余らせておくのも勿体ないしジャンジャン食べてくれ!栄養満点だぞ!!」
「あ、ああ…そうだな?」
(倫理観の欠片もねえなぁ…)
「まあ考えてみれば人間も鶏の卵を普通に食べてるわけだしな。それなら食べないと損というやつか。有難く食べさせてもらおう」
「おお!マスターもそう思うか!」
(人間も日々何かの肉を食べてるわけだしな。その辺を気にし過ぎたらキリがない)
「さあさあたくさん食べてくれ。まだまだ卵は倉庫に有り余ってるからな~有難く受け取るといいぞ!!」
「まあ…貰えるなら貰っておくが……」
げんなりとしながらも追加の卵を4つ受け取る大助。その全てを即座に倉庫へと収納した。
(しばらくは卵料理パラダイスだな)
異種交流会とはとかく難しい。それを再認識した大助だった。




