第33話
「さてさて、それじゃ実験を始める前に軽く情報の擦り合わせをしておこう。ラビ、転移のパターンには2種類あるって事は理解出来てるよな?」
「はい。能動的に転移する場合と、受動的に転移する場合ですよね」
「正解だ」
ラビの答えを聞いた大助が軽く頷く。
「この草はその2パターン全てに対応出来ると俺は考えている。攻撃にも防御にも応用可能な優秀な草だ。だからこそ、この草に関しては命懸けでも事前にテストしておく必要があると俺は判断したわけだ」
「というわけでラビ、この転移草を持って庭の端まで移動してくれ。キーワードはそうだな…「ニンジン」にしておこう。忘れるなよ」
「…は…はい。わわわ、分かりました……」
ラビがプルプルと震えながらもしっかりと転移草を握りしめ庭の端まで移動する。
「よし。準備OKだなラビ!?」
「はい!準備OKで~す!!」
ラビがブンブンと小さな手を振っている事を視認した大助がその手に転移草を握りしめる。
「魔力の充填完了。キーワードの設定完了」
(さあ見せてくれ、その実力を)
「そんじゃ行くぞラビ!!」
「___‘ニンジン‘」
「ひゃ…!?」
キーワードを呟いた次の瞬間にはもう大助はラビの目の前に現れていた。目の前にはアワアワと落ち着きなく視線を動かすラビの真っ赤な顔が1つ、見下ろす形で見える。
「ふむ…」
「マスター…?大丈夫ですか?」
「ああ。実験成功ってところだな。…この草は凄いぞラビ。可能性に満ち溢れている。応用方法が多過ぎて迷うレベルだ。良い。実に良いぞ」
「…ふふ」
「ん…?」
ラビの予想外の反応に大助が反応する。
「あ、…すみません。その、マスターが凄く楽しそうに見えたのでつい…」
「そうか?」
「はい。なんというか、クロにそっくりな感じでした」
「…まあ、自覚はある」
面白ければ面白い程饒舌になるという自分自身の癖を自覚しつつ大助はラビとの雑談を続けていた。
「…ふむ」
翌日、のんびりとイチゴのホールケーキを食べつつスマートフォンを操作する大助。
「お…?もう試作品が完成したのか」
スマートフォンの画面にはクラウドファンディングの機能が表示されていた。大助が再確認も兼ねてプロジェクトの進行具合を確認する。
・プロジェクト名 世界を滅ぼした魔女の暇潰し
<ポーションの限界を超えた物を作ろうと思ってるわ。なんでそんな物を作るのかって?理由なんかないわよ。だって暇だし。人体実験とか諸々で費用がかかるから出資者を募集中よ>
「試作品と、あとはメッセージもあるな」
メールにはメッセージ共にサンプル品が送付されていた。
<試作品が完成したんで送るわ。名付けるなら「スーパー・ポーション」と言ったところかしら。これを飲むと5分間だけ小級ポーションの効果が永続するわよ。ただし欠損までは治せないから注意して>
「いいね~…」
スーパー・ポーションと名付けられた特殊なポーションをアプリから取り出し、直接手に持って確認を始める大助。
「ふむ」
(液体の色が真っ赤だな。禍々しい感じがするが大丈夫なのか?)
明らかに通常の工程では生み出せないような危険な雰囲気を纏ったポーション。それを大助は楽しそうに眺め続けていた。




