第26話
「…マスター。こんな場所で何をするの?」
「ああ。これから色々と草の実験をしようと思ってな」
大助がスマートフォンの画面から火炎草とドラゴン草を取り出す。
「おまえには実験中の見張り兼助手を頼みたい」
「…了解。…全力でサポートする」
クラリアの両手が青色の「魔力」に包まれる。
「___‘プラント・クローン‘」
その詠唱と共にクラリアの両手からミニサイズのクラリアが4体現れた。
「…この子達を見張りとして使う。…まだ複雑な行動は無理だけど、将来的には自立行動可能な個体に仕上げたい」
「…ほう」
興味深そうに小さなクラリア達を観察する大助。
「よし。もしものときの対応は任せたぞクラリア」
大助が手に持った火炎草を使おうと思考を回す。
「てか、どうやって使うんだこれ?」
(こう、手に持って魔力を込めればいいのか?それとも食べて使うのか?…分からん)
「…ん。マスター、その草はそのまま食べると火が吹ける」
「お?ナイスだクラリア助手。やはりおまえを呼んで正解だったようだな」
大助がクラリアの情報に感謝しつつ火炎草を口に含む。
「ぐうっ…!?」
強烈な「辛さ」を感じ思わず開いた大助の口から巨大な火の塊が飛び出す。ひゅるるっと海の方向に飛んだ後、衝撃音と共に海面に衝突した。
「…げほ。こりゃダメだ。味覚がおかしくなっちまうぜ…て、どうしたクラリア?」
大助の傍で貝のように固まっているクラリアを見る大助。
「…ん。…火はちょっと苦手。…でもさっきの魔法は凄かった。…パチパチパチ」
クラリアが大助に称賛の拍手を送る。
「ふむ。この草は俺にはあまり向いてないが…とにもかくにも実験成功ってところだな」
一芸よりも長く使える汎用性のある草を大助は求めていた。
「次はドラゴン草だ」
大助が次の草を手に持ち口に含む。
(…ふむ。味は普通だな)
「……あれ?何も起きねえぞ?」
(おかしいな?確か俺が見た説明だとドラゴンみたいな力が使えるはずなんだが…)
「んん~?こうか?こんな感じか?」
数々の珍妙なポーズを試し悩む大助。そのあまりにも異様な姿を見兼ねてか、クラリアがトトトッと大助に近づいてくる。
「…マスター。…魔法はイメージがとっても大事」
「イメージ?」
「…ん。…出来ると思ったら出来る。…出来ないと思ったら出来ない。…魔法はそんな感じ」
「なるほど…」
(つまりは一番最初に脳裏に浮かんだものが大切という事か)
(「竜」ってのは自由の象徴みたいなものだ。その中で俺自身がもっとも印象に残ったものと言えば…)
「…ふむ。まあこうなるよな」
大助の脳内で明確にイメージが固まった瞬間、その背中から半透明の緑の翼が生えた。
「翼=自由か」
「…部分的な形態変化。…私も出来る」
大助が生成した翼に張り合うようにクラリアも即席で肉体を変化させる。僅か数秒でクラリアの背中から翼のような物体が生成された。
「いや、別に張り合わなくてもいいからな?そもそも人間はおまえみたいに自由に形状を変化させる事は出来ない。おまえのその力は結構凄いものなんだよ」
「…ん。…褒めてる?」
「褒めてるとも。だからその調子でもしもの時は頼むぞ」
「ふむ…まあこんな感じか」
「…ん。大分上達した」
実験を開始してから4時間が経過していた。その間に集中して行っていた実験は主に2つ。ドラゴン草の効果時間の検証と実戦への導入実験だ。
「自力ってわけじゃないが、空を飛んだことは何度かあってな。感覚自体は既に掴んでる」
「だけどまあ、この草、ちょっと問題だらけだな」
ドラゴン草の問題点は数多く存在する。まずその効果時間だ。
(バラつきはあるが約1分程度しか持たない。しかも「力」を強くしようとすると更に効果時間は縮まる。これだとあまり実用的とは言えない)
2つ目はコントロールの難しさ。これに関しては大助も今回の実験で痛感していた。
(魔法は「自由」だ。だが自由程不自由なものはない)
変な部分で現実的な大助の思考がその自由なイメージを阻害しているのだ。本来ならば何にでもなるその力に現実という鎖が絡まってしまっている。その事自体は大助も痛感していた。
「なんというか、こういう「白紙」の力は俺には向いていないな」
「…?」
「よし。とりあえず実験は成功だ。色々と得る物があった。今日はこれで引き上げよう」
「…マスター。…お疲れ様」
「ああ。今日は手伝ってくれてありがとな。というわけでこいつを持っていけ」
大助が車内へと戻りドライアイスで冷やしていた白い大きな箱をクラリアへと押し付ける。
「…マスター。…何これ?」
「高速の売店で売ってたケーキだ。なんかこだわりの素材で作られた特注品のケーキらしい。後で味の感想を聞かせてくれ」
「…ありがとうマスター。…ラビとクロにも食わせて感想を聞いて来る」
顔をわずかに綻ばせたクラリアが上機嫌で手元のスマートフォンを操作し元の世界へと帰還する。
「……え?俺が操作しなくてもあいつ勝手に帰れるのか?」
「……」
(今まであまり気にしてなかったが、あいつらが持ってるスマートフォンにどこまでの「権限」があるのか把握しておく必要があるかもな)
課題は山積みで先は見えない。それでも確かな楽しさを感じながら大助は自宅へと帰還した。




