第23話
「ぬううっ…!?狙いがブレて…ぐぬぬぬ!!」
「……」
(ダメだなこいつは…ここで「処分」しとくか…?)
閃光の放出が止まると同時に大助は少女の首を肘で圧迫しながら和服の襟もとを掴み、体を回転させ床に叩き付けようとする。
「ぬっ!?させないぞ!!」
(だけどあれだけコインを使ったのにたったの2分でクーリング・オフってのもなぁ……)
そうはさせないと少女が力任せに体勢を戻そうと力を入れた。
「ふぬううう…!!」
「そりゃダメだろ。0点の動きだな」
姿勢を元に戻そうとする少女の力を利用し大助も反対側に重心をかける。
「なっ!?」
「人間の「技術」を舐め過ぎだ。お前には魔法を使う価値も無い」
足を引っかけると同時に床に組み倒す。
「ふぎゃ!?」
片腕の関節を固めた後、少女の両目1cm前に指を2本ピッタリと突きつける大助。
「動くなよ。どこか一か所でも力を入れたらお前の眼窩から両目を抉り出す。これ、冗談じゃないからな?」
「んひっ…!?」
このとき、少女は初めて男の瞳を見た。ドロドロに淀んで濁った黒い瞳。その顔には少女が今まで見たこともないような表情が浮かんでいた。それは路傍の石ころや蟻へと向けられる表情。お前には何の価値も無いのだと。そう暗に告げる瞳が少女を射抜く。
「お嬢ちゃんよぉ…おまえの口と脳みそはいったい何のために備わってるんだ?少なくとも言語を解する知性を持ってるんだったらまずは会話だと思うんだけどな?」
「武力行使ってのは最終手段だ。なんせそれよりも「先が」無い。それをやるとどっちかが壊れるまで続ける必要がある。相手はよくよく選ぶ必要があると俺は思うけどな~?」
大助が少しだけおどけたような口調でそう語りかける。ただし表情は一切変わらず指先も眼球先から離さない。
「これからいくつか質問をする。ここから先はなるべく頭を使って考えた方が良い。返答次第でお前は…いや、これは言わないでおこう」
「……」
「お前の名前は?」
「…ふん!なんでそんなことを……いっ!?…えっと、名前はまだ無い………です」
ピクリと動きそうになった指を見て慌てて少女が素直に答える。返答次第で大助は本気で眼球を取りに来ると少女は本能で理解した。
「そうか。じゃあ「クロ」とでも呼ぶわ。次の質問だ。お前は何者だ?」
「……」
涙目になりながらも必死に少女は答えを考え始める。その姿を見ても大助の表情は変わらない。答えを急がせるような事もしない。その機械じみた大助の様子が少女にかつてない程の危機感を持たせていた。
「…私は、おま…いや、「マスター」に召喚されたお助けモンスターだ」
「OKだ。なら俺もそう認識しよう」
(てっきり頭のネジが完全に吹っ飛んだヤバいモンスターか何かかと思っていたが…自分が何者なのかは理解出来ているな)
「まあ何だ?自分の主人の実力を試したいって気持ちは分からなくもない。だがそれは時と場所を選ぶ必要がある。見ろ。お前のおかげで窓際付近がめちゃくちゃだ」
ポッカリと穴が開き焼き焦げた窓際付近を指差す大助。
「ふん。自分よりも弱い奴に従うつもりなんて無いぞ。…まあ、マスターはそこそこ見込みがあるみたいだから従ってやる」
「……」
少女のあまりにも脳筋な返答に思わず表情を引きつらせる大助。
「まあ、指示に従うなら何でもいいか」
「…んお?」
「別にご近所さんが焦げ肉になっても俺としてはどうでもいいんだ。だがな、流石にブレスはやり過ぎだ。修繕費費用やら損壊説明やらで俺の貯金と時間がぶっ飛ぶ」
「…??」
「お前には正しい現代知識と教養が必要だという事だ」
大助の脳内で少女の処遇が決定する。
「…え?…え?」
「というわけで損害金を回収するまでお前はタダ働き決定。後で見積書を送るからしっかりと働いてくれよ」
「マスター!?」
有無を言わさず大助がスマートフォンを操作しブラックドラゴンを放置モードへと転送する。そしてラビとクラリアに向けてメッセージを送信した。
<どうしようもないアホドラゴンをそっちに送った。最低限使い物になるまで色々と教えてやってくれ>
「これでよし」
メールを送信し、大助が目の前に広がる惨状へと目を向けた。
「……」
(最悪だ。パッと見だとなんかヤバい薬品でも爆発させた感じに見える)
「とりあえず何か上手い言い訳を考えないとな…」
管理会社に説明する「現実的」な言い訳を考えつつ、大助の1日は終わった。




