第20話
「……むぅ」
市内のありふれた宝くじ売り場。そこでは煮え切らない表情を浮かべた大助の姿があった。
(色々とデータは取れたが、あまり結果はよろしくないな)
大助の着用している服の内側には未来草とポーションが仕込まれている。
(まあいい。ともかく現状をまとめておこう)
「…よっと」
店の近くに設置された白いベンチに腰掛けつつ大助が軽く頭を抱える。
(頭が痛ぇええ……ハイリスクハイリターンってやつだな)
大助は未来草の実験を行っていた。未来草を食べると大助の感覚で30秒程先の未来が体感3秒だけ見えるのだ。
(動画を5倍速や10倍速で見ているときに近い感覚だ。非常に気持ちが悪い)
問題なのは未来が見えたその後の現象だ。
(明らかに情報の過負荷で脳に異常が起きてる。ポーションが無かったらマジでイッちまうレベルだな)
「……ん」
その対策としてポーションを即座に使用する大助。
「ふむ…」
(ポーションは脳へのダメージにも有効っと。これは結構重要な情報だな)
「ポーションの残りが少ない。なんとか今日中には利益を出したいところだが…」
宝くじ売り場でスクラッチを購入し、コインで削るその前に未来草を使用する。
「…むぅ」
30秒後の大助は見事に惨敗していた。
「あっ…そうか。最初からハズレ券とかだと意味ないなこれ」
「……」
(明らかに脳の回転が悪くなってるな。購入する数を増やすか?…いやダメだな。情報の取捨選択が追い付かなくなる)
「宝クジ関連はちょっとダメそうだな…」
30秒という制約に頭を悩ませる大助。
「計画を練り直す必要があるな」
「競馬とか競輪もダメだ。直ぐに結果が欲しい」
(公営競技は時間が掛かり過ぎる。競技が始まってから結果が分かっても意味がない)
必然的にいわゆる健全な賭け事は選択肢から外れていく。
「短時間で稼ぐならネット関係しかないな」
ネットの証券口座には100万という金額が表示されていた。準備は既に完了している。
「……」
「そういやもうこんな時間か」
時計の針は午後1時を指している。
(先に昼飯を済ませるか)
冷凍庫に保存していた解毒草入りミートソースパスタを取り出し電子レンジで解凍する大助。
(試食兼実食ってところか。ラビとかクラリアでテストしてもいいんだが、あいつらが効力に関して嘘を付く可能性もあるからな)
「…んん。味は悪くないな。このシャキシャキした感触と苦さも悪くない」
健康的かつ実験的な食事を終わらせ、大助が素早く皿を洗い始める。
(パスタソースは乾く前に洗えば簡単に汚れが落ちる。1人暮らしの人間にとっては必須の知識だ)
「これでよし」
片付けが終わり、モニターの画面の前に戻る大助。画面には海外の証券取引画面が表示されている。
「FXでもBOでも何でもいい。短時間で取引できるやつに未来草を使う」
「…ふふ」
チートという単語が大助の脳裏に浮かぶ。思わずその語句の無意味さに失笑する大助。
(未来が見える草を使って不正に取引しました~なんて事は立証不可能だし、言ったところで狂人扱いだ)
「バレなきゃ犯罪じゃないとはよく言ったもんだよなぁ~?」
「……ぐおおおおお…」
数日後、そこには布団の中で脳の痛みに悶絶する大助の姿があった。
(これはヤバい…使い続けるとマジで頭がイッちまう)
ポーションでも直しきれない幻肢痛とも呼ぶべき現象に大助は苦しんでいた。
「それも悪くはないんだが…今の俺は…もうちょっと今を楽しみたいんだよな…」
(未来草は封印決定だ。こんなので壊れるのはあまりにも無意味でつまらない結末だ)
「データは十分に取れた。それに、思わぬ副産物も獲得できた。このふざけた頭痛も甘んじて受け入れるさ」
大助の手にある通帳。そこに記帳された口座残額は3億円。常識では考えられない金額がそこに振り込まれていた。
(税金で引かれる金額を考えても約1億強は手元に残るぜ。一攫千金ってやつだ)
「流石に稼ぎ過ぎたか?1億あっても使い道が思いつかん……」
(高級な焼き肉屋にでも行くか?…いや、別に行かなくても高い肉を買って焼けば良くないか?」
そんなありきたりな考えが大助の脳内に浮かぶ。大助には金に対する執着心というものはない。1億という大金も「毎日外食できるぜ!ハッピーだよなぁ!?」という程度のものだ。
(金は夢へのチケットだ。貯めて置いても意味は無い)
「ふむ…全額銀行に預けておくのはちと怖い金額だな。1000万くらいはタンス預金しておくか?」
体調が回復してきた大助がゆっくりとソファーへと倒れ込みつつ次にするべき行動を考え始める。
「確か、普通の人間の生涯賃金が3億円ぐらいだったよな…」
ボーと色々な事を考える大助。その表情は楽し気に歪んでいた。
「大金は新しいトラブルを呼び込んでくれる。ああ…実に楽しみだ……」




