第16話
「あ~…クラリアちゃんよぉ…?そろそろ離れてほしいんだが……」
「…マスター、めっちゃ美味しそう」
「……」
大助の首筋を背後からガジガジと甘噛みするクラリア。それを観察する大助。時刻は午前10時ジャスト。大助の部屋はカオスな状況へと突入していた。
「言っておくが俺は食いものじゃねえぞ?」
「…うまうま」
(こ、こいつ飢えた野獣のような目をしてやがる)
身の危険を感じた大助が無理やりクラリアの頭部を掴み流れるように前方へ投げ飛ばす。
「はい終了。離れた離れた」
「…ドメスティックでバイオレンス。…でもそういう愛の形を受け入れる覚悟が私にはある」
「そんな愛はいらねぇな」
大助がゆっくりと座布団へと腰を落とす。それを見たクラリアがまったく同じ動作でその場へと腰を落とした。
「いくつか質問がある。正直に答えてくれ」
「…ん」
「とりあえずだ。…あのジャングルみたいなのがお前の「本体」ってことだよな?」
大助がベランダを指差す。簡易的な掃除の結果、部屋の内部だけは綺麗にな状態になっていた。だがベランダは違う。未だに荒れたジャングルのような状態になっているのだ。
「…その通り。…私は「分体」…本体が餌を捕らえる為の補助をするのが役割」
「やっぱりそうか…」
(中々に極悪な仕組みだ。現代版のハニートラップかよ。いや、それよりも質が悪い。なんせ最終的に待ち受けているのは本物のモンスターなんだからな)
「なる程ねぇ…もう1つ聞かせてくれ。お前は俺のお助けモンスターってことでいいんだよな?つまり俺の指揮下に入っていると考えても?」
「…ん。…私はそういう存在。…マスターの役に立てるのなら、私は何でもする」
(危ない奴だな。こいつはブレーキがぶっ壊れているタイプの人間…いや、モンスターだな)
「OKだ。面白い。実に面白い。それなら俺の為に早速今日から働いて貰おう」
「…ん」
(新しい労働力ゲットだぜ!!)
なんにせよ労働力が増える事は今の大助にとって大きなプラスだ。大助は正式にクラリアをお助けモンスターとして扱き使おうと決めた。
「え~と、こういう場合は……」
アプリの画面にはこう表示されていた。
<はぐれモンスター「クラリア」をお助けモンスターとして登録しますか?>
(もちろん答えはYesだ)
大助がYesのボタンをタップする。すると画面上にクラリアに関するデータが表示された。
「ふむ…」
大助の視線が「強制送還」という項目へと向けられる。
(これはたぶんクラリアを強制的にラビの居る世界へと送り戻す機能だろうな)
「……」
「…ん?」
(どう考えてもこいつがここに居るのは邪魔だ。日常生活に影響が出る。誰かと同居するってのはそれだけのリスクがあるんだよ)
「悪いがクラリアよ、お前をこのままここに置くわけにはいかないんだ。というわけでさっさと帰ってくれ」
「…マスター。…聞いて欲しい。…私をここに置いておくと、とっても素敵な特典がある」
「ほう…言ってみろ」
「…なんと毎朝可愛い美少女のモーニングコールが聞ける。…だからマスターは私をこのままここに住まわせるべき」
「んなもん要らんわ。強制送還決定だな」
(物凄い学習能力だ。俺よりも頭良いんじゃないかこいつ?)
クラリアの知能は高い。日本語を喋るだけではなく「冗談」という「概念」まで理解を進めている。
「お前にはラビと一緒に放置モードの手伝いをしてもらう。そっちの世界に移動させるからよろしくな」
「……邪魔者は消す」
「いや、お前の先輩みたいな存在だと思うが…」
「…ん。…マスターには私だけ居れば大丈夫。…粗大ごみは処理しないといけない」
「全然大丈夫じゃないんだが…まあいいや。そんじゃラビにもよろしく言っておいてくれ~」
大助がスマートフォンを操作しクラリアを放置モードへと転送する。追加でラビにもメッセージを送信した。




