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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
四章 マッドネス・パーティー
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第103話

「…はあっ…!…はあっ…!……くそったれが……」


 余熱で真っ赤に染まった刀を地面に下ろす川森。結界が破壊されたことにより男達は元の世界へと戻った。地面には深い斬撃の後が残り、その衝撃は古い家にまで届いている。半壊状態の家と庭の惨状を前に川本と川西は唖然とした表情を浮かべていた。


「「……」」


「……」


(冗談じゃない。あのレベルの能力者。しかもやつらの口ぶりからしてまだ構成員が居る可能性もある。これはもう完全に俺達の手に負える依頼じゃない)


「…隊長。あんた…腕が……」


「ん…?ああ、これか?」


 川森が真っ黒に変色した両腕をブラブラと揺らす。


「自滅覚悟で能力を使えばあれぐらいの火力は誰でも出せるさ」


「「……」」


 当然そんな事を常人が出来るはずはない。それを出来てしまうからこそ川森は協会の幹部へと抜擢されたのだ。


「まあ、所詮は保険を前提にした無茶だけどな……」


 川森がポーチの中に仕込んでいた瓶を口で取り出し真っ黒な両腕へと内部の液体を垂らす。すると驚くほどの速度で腕が元の状態へと復元し始めた。


「…っ!?特級の回復薬かそれ…?そんなものまで持ってたのか……」


「回復薬か…効果は凄えが…高いんだろそれ…?」


「ああ。俺にこんなヤバいものを買える財力はない。協会からの支給品だよ」


 今回の依頼用に川森には2つのアイテムが支給されていた。1つは回復効果を持つ液体を詰めた瓶。そしてもう1つが緊急離脱用の能力が込められた巻物だ。その希少な巻物を完治した両腕で川森が取り出す。


「なっ!?…あんた…それはまさか!?」


「マジか!?」


 川本と川西の口から驚きの声が上がる。殺しに関わる能力者ならばその緑色の巻物を知らぬ物などいない。何故ならばその伝説の巻物にはある能力が込められていると噂されているからだ。


「転移の巻物!?本物かそれ!?」


「ああ。本物だ。これ1つで俺達全員の命よりも重いとか「副会長」にはガチャガチャと文句を言われたがな……」


 白紙の巻物。そこに行先を書き込めばありとあらゆる場所へと一瞬で移動する事ができる。殺し屋ならばこのアイテムは喉から手が出る程欲しいものだ。


「ともかく、協会は佐々木と愉快な仲間たちの「情報」を欲している。これ以上の深入りは危険だ。離脱するぞ」


「「……」」


 川森のその発言に男達2人は本当に大丈夫なのかと視線で問いかける。


「敵の戦力は俺達の想像を超えている。今回得た情報があれば少なくとも俺達が「粛清」されることはない。俺がこうして貴重なアイテムを支給されている事がいい証拠だろう?」


「…ああ」


「そうだな。あの「協会」が捨て駒にこんな貴重なアイテムを渡すわけがねえもんな」


「よし。理解出来たならさっさと……」


「___ふむ。中々興味深い魔道具ですね?」


「「「…っ!?」」」


 その妙に可愛い声を忘れるはずがない。川田を除いた男達全員が即座にその場から離れ臨戦態勢を取る。


「あれが本当の切り札っぽいよね~?」


「間違いないだろうな。人間は激しい緊張状態から解放されると油断する傾向があるとあの人は言っていた。今まさにそれが証明されたという事だ」


「救えないお馬鹿な人たちね」


「そんな…馬鹿な……」


 川森達を囲むように次々と小さな少女達が地面から姿を現していく。その数は4体を超え10体、20体へと更に増え続けていく。


「嘘だろ……」


「何だよ!?何なんだよこいつらは!?」


 川本と川西は既に戦意を喪失しかけていた。


「ありえない!…お前たちは…間違いなく死んだはずだ!!」


「そうですね。あなたの言う通り前の「個体」死にましたよ?それは間違いないです」


「…はぁ…?」


「ですから、死んだ後にその記録を再現した「私が」生み出されただけですよ。私はNo.1としての記憶を引き継いでいます。「我思う、故に我在り」というやつですね」


 川森には理解する事が出来ない。少女達がいったい何を言っているのかを。


「「人格」を形成するものは「記憶」です。その辺りの思考実験は諸説ありますが、つまりは「自分」を「自分」と認識できる事だけが重要なんですよ。私は誰が何と言おうとNo.1という個体です。ただそれだけの話だと思いませんか?」


「……化け物どもが」


 事態は既に川森の手に負えるレベルから逸脱していた。現状の戦力では少女達全員を完全に始末する事は困難を極めるのだ。


(…どうすればいい?直接的な戦闘力は低いが相手は不死身のバケモノだ。逃げようにもあの巻物には発動条件がある。少なくとも10秒は文字を書き込む時間が必要だ)


「私たちの役割は「斥候」です。あなた達から情報を引き出せさえすればもうそれだけで役目は十分に果たせるんですよ」


「ですが……流石にここまで大切な家をめちゃくちゃにされた以上、それ相応のもてなしをしないわけにはいかなくなりました」


「…っ!?」


 そこでようやく川森達は気が付く。小さな少女達の目に宿る確かな殺意を。


「あなた達全員を危険判定度SSS相当の人間と認識します」


「そうなるとね~わたし達だけだと厳しいよね~」


「であれば、方法は1つしかない」


「オリジナルを呼びましょうか」


「「「「賛成~!!」」」」


 大量の白い少女達が次々と集まり合体していく。それはあまりにも異様な光景だ。少女達は何か恐ろしい事をしようとしている。だが男達は動くことが出来ない。未知への恐怖心が体の自由を縛っているのだ。


「…冗談だろ…あれで斥候だと…?ならやつらが口にする本体は……」


「何が起きてんだよ!?」


「なんだよこりゃあ……」


 数秒の内に大量の白い少女達は1つの巨大な蕾のような形状になっていた。そしてゆっくりと蕾から白くて奇妙な形状をした花が咲く。


「「「……」」」


 そして、その中から何者かがゆっくりと這い出てきたのだ。


「…ん。…クラリアちゃん降臨」

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