Emperor
・・・もう駄目か。
そろそろ限界だとは思っていたが、これ以上押し付けるのはどうやら無理らしい。
はぁ・・・茶番も、もう終わりにしよう。
全く、主人公ってのは面倒くさいね。鬱陶しいったらありゃしない。
魔法だって万能じゃないし・・・あー、この思考も見えてるんだっけ。
「じゃあ、行ってくる。そっちはよろしく、二ノ宮。」
「行ってこい神崎。精一杯フォローするから。」
私は機械を操作して仮想世界に入る。
もちろん、ノアも一緒に。
「・・・何か、雰囲気・・・変わった?」
「そうかもね、ここなら気を遣う必要もないだろうし!元々は私が暮らす為に作られた仮想世界なんだから何でも思い通りになってもいいと思うんだけど・・・そうはいかないわね。」
仮想世界に来て一番初めに見えるのは一面の白に、宙に浮く扉の数々。大小様々な時計。
地面は光を反射していて眩しい・・・が熱は持っていない。
分かりやすく言えば、ゲームを始める前のホーム画面みたいな感じよ。
「・・・早く、始めよう。」
「わかってるわよ、大丈夫。」
私は慣れた手つきで管理者用のタッチパネル・・・この世界では一冊の本になっているが。
本は私の意思によって顕現する。実は、本を使わなくても口頭でコマンド打てるんだけど、緊急時でもない限り本を使うわ。
しかし、当然のように拒否、拒否、拒否。
「はぁ・・・やっぱり強硬手段に出るしかないか。」
正直この手が成功する確率はあんまり高くないんだけど・・・主人公の力、信じるからね?
「二ノ宮が言ったわね、データの全てはこの仮想世界に物体として存在している。それを壊せばデータも無くなる。だったら壊せばいいのよ!作るよりよっぽど簡単だわ。」
扉を開いてフィールドを生成する。いや、もう既に生成されているようで、着々と支配が進んでいるようだ。
流石に速いわね・・・重要なデータはちゃんと建物に守られてるようだし・・・。
あ、もしかして話に付いていけてない?だったらそれでいいわ。私としても詳しく知られるのは嫌だし。
「でも、管理者権限なめんじゃないわよ?」
私は素早く本を取り出し、コマンドを書き出す。
頭で考えたことがそのまま反映されるからこれ楽なのよね。
オーダー、システムコマンド、ギフト『メニューグローブ』
オーダー、システムコマンド、ギフト『トラッシュスティック』
オーダー、システムコマンド、ステータス『インビジブル』ターゲット、E3、Noa
「よし、これでよし。」
私の手には黒いグローブが装着されており、トラッシュスティック・・・ステッキ、と言った方が分かりやすいけど。装飾なしの魔法のステッキみたいな棒を右手に持っている。
「なんか・・・不審者、みたい。」
「今からしようとしてることは不審者そのものだけどね・・・。」
私はデータが守られているであろう建物に近づく。
「これ、日本のお城よね・・・ここまで精工に作れるのね・・・!今から壊すんだけど。」
棒で城壁を軽く叩く。すると、叩いた周辺に穴があく。これが、トラッシュスティック。
自分に当てたら自分が消えちゃうから要注意!
「ノアは一ノ瀬を探してくれない?ここにはいなさそうだけど・・・私の勘が正しければ記憶を操作されている。あいつらは平気でそういうことをする。」
恐らくだが、抵抗されないように記憶を消す・・・もしくは封印するだろう。
それがこの仮想世界であればできてしまうということに、我ながら恐怖する。
「わ、わかった・・・そっちも・・・気を、付けて。」
「わかってる、ヘマはしないわ。扉をくぐってまたあっちに戻るから、そこで落ち合いましょ。」
私は棒を半ば振り回すようにして城壁を次々に破壊し始めた。
ものの数分で本陣までたどり着いたが・・・高さがあるのでこの建物を登らないといけないようだ。
流石に建物全部を壊すのは無理だし、下部分を破壊して自重で崩壊させるのも途中で見つかるだろう。
素直に侵入することにする。
建物の中には多くの見張りがいるようだが、インビジブルの状態を付与した私を見つけるのは無理だったようで、直ぐに登りきることが出来た。
「ここね、多分。装飾が随分豪華だし。」
天守閣の中に入る。扉は開かないので壁を棒で壊してだが。
しかし予想外のことが起きる。
「やあ、随分面白い入室方法だね?気づいてないとでも思った?」
「お前・・・こんな所まで付いてきて。いい加減諦めて欲しいな、なんて。」
「無理かな・・・そうだ、僕、『皇帝』になったんだよ!」




