少女闘争 その3 3:人探し (黎明の魔女)
キセノンシティのとある喫茶店。
レトロな雰囲気の昔ながらの喫茶店だ。
そこでは人種問わず、あらゆる種族が出入りし、また働いている。
そこの窓際の席に悠と少年は座っていた。
悠の手にはカフェオレ、少年の手にはオレンジジュース。
少年、名前は坂田康平といったか。
大人しそうな顔立ちに、小柄な体つき。
とても、先ほどまで果敢に不良3人を相手に立ち向かっていたとは思えない。
「さっきのは、なかなかの勇敢さだったね。」
じっとりとした目線で問いかける悠。
康平に何か特別な能力があるわけでもなく、ただやられに行っているようにしか思えない行動だった。
皮肉を込めて言ったつもりだったが、悠の問いに康平はてへへ、と笑う。
「なに笑ってんのよ、別に誉めてるんじゃないわよ?」
悠は半ば呆れる。
「お兄さん探してるんだってね。」
悠がそう問いかけると、康平は少し押し黙った。
「三日前から家に戻ってなくて。」
そう俯く。
康平の兄、俊平は三日前からうちに帰っていない。
「警察には届けたの?」
「はい。でも全然進展なくて。あと、うち、少し複雑でして。親もそのうち帰ってくるだろうって。お兄ちゃん、夜遊びとか最近多かったし。」
「さっきの不良たちはお兄さんと繋がりがある人たちなのね?」
「よく一緒にいるのを見ていたので。知らないはずはないんです。だから何回も聞いたんですけど、はぐらかされるばかりで。」
康平の兄は素行不良だったようだ。
さすがに三日も帰っていないとなると、異常事態だと思うが、色々と事情があるのだろうか。
シンからの情報には良くない連中と繋がりがある、とあった。
しかもヤバい方向の。
何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高そうだ。
「飯田さんも兄を探しているんですか?」
悠が思案していると、康平がそう聞いてきた。
「まあね。ちょっと人づてに頼まれて。」
「誰からですか?ひょっとして兄は何かに巻き込まれているんでしょうか?」
「うーん、説明が難しいわね。とりあえず秘密ってことにさせてもらいたいんだけど。」
康平は少し黙る。考えているようだ。
「わかりました。事情があるんですよね。聞きません。その代わりと言っちゃなんですが、手伝ってくれませんか?今、頼れる人がいないので・・・。」
康平が自ら無謀な行動に出たのはそういった理由もありそうだ。
「もちろん。私もあなたのお兄さんについて聞きたいし、協力関係になれるとありがたい。」
もともと悠が不良たちに会いに行ったのは、康平と同じく彼のお兄さんの情報が欲しかったからだ。
弟の康平なら色々と知っているかもしれない。
「どこまでわかってるの?」
悠は大雑把に質問した。
「三日前に授業が終わってから学校を出て、キセノンシティに向かったみたいです。クラスの人が言ってました。さっきの不良たちと一緒だったみたいです。」
「だから彼らに話を聞いていたのね。」
「はい。あと、その日、兄からメッセージが届いていて。」
スマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを立ち上げ、悠に手渡す。
『ごめん。しばらく帰れない。心配はしなくていい。』
たったそれだけのメッセージ。
心配するな、と書いてあるが、康平はそれを見て違和感を覚えたらしい。
「何というか、兄さんらしくなくて。この文面。いつもはもっと、違うというか。」
おそらく身近な人間にしかわからないような差異があるのだろう。
話を聞くに、康平はそこから人づてに聞き回り、兄の交友関係から足跡を辿ろうとしたようだ。
言葉にすると簡単だが、実際に行動に移すとなると、かなりのパワーが必要だ。
「でも、なかなかうまくいかなくて。ドラマや映画みたいにはいかないですね。」
康平は項垂れた様子で俯く。
実際、素人が人探しするのは、かなり困難だ。
使える手も限られる。
「警察の方の状況は?」
「一応探しはしてくれました。けど、ほら、キセノンの警察って、あれですから。」
有の経験上、キセノンシティの警察はこの場合あてにならない。
法を守る執行機関として存在するのだが、あくまで守るのは法と秩序であって、人ではない。
カオスを統制するための、他の都市とは異なった存在なのだ。
さらに普段から素行不良だった所を聞いていると、事件性が見出せず取り合ってくれるかも怪しい。
とりあえず、康平なりに手は尽くしたようだ。
「スマートフォンに来たメッセージ、見せてくれる?そのメッセージの電子記録とかから何かわかるかも。」
「あ、はい。」
悠は康平からスマートフォンを受け取ると、自身のスマートフォンからある人物に電話をかける。
『…もしもし?悠ちゃん?』
通話口から聞こえる、おっとりとしてどこか抜けた声。
「真理?ちょっと調べて欲しい事があるんだけど、いい?」
『うん!いいよ!頼ってくれて嬉しいな♪』
るんるん、と擬音が聞こえてきそうな声色。
真理のこの妙なテンションにも慣れてきたが、悠は苦手だ。
あくまで事務的に話を進める。
「何を教えればいい?」
『うーんとね、まずはそのスマホの機体番号とかわかれば…、あ、でもターゲットは悠ちゃんの近くにあるんだよね?じゃあ…、と。』
少しの沈黙。
『ほい。メッセージアプリのメッセージかな?』
「相変わらず神のごとく素晴らしい能力だこと。プライバシーも何も、あったもんじゃないわね。」
『え、照れるなぁ』
「褒めてないわよ、皮肉ってんのよ」
『え、そうなの?』
真理はショボーンとしたようだ。
その後。真理はいくつかの情報を悠に教える。
メッセージを発信した場所と、発信した人物。そして発信前の行動の一部。
『悠ちゃんのスマホの1番近くにあったスマホをハッキングして、起動中のアプリからメッセージを発見、そこからアプリのログとサーバー側のログ、その時の位置情報、あとは町の監視カメラを調べて、人物とその行動経緯を特定したよ!キセノンシティの浅瀬らへんだね。情報は悠ちゃんのスマホに入れといたから。』
「ありがと。」
『悠ちゃん…そんなにスイーツ食べてたら、太るよ…。』
無言で電話を切る悠。
どうやら悠の写真データが覗かれてしまったようだ。
おおかたスイーツ集でも見られたのだろう。
プライバシーの覗き見について、悠はあまり気にしていないが、沙希あたりは気にしそうだ。
(まあ、真理の場合、情報処理が高速過ぎて、見えちゃったって感じなんだろけど。)
「康平、お兄さんの居場所、わかったわよ。」
「本当ですか?!」
康平が驚きの声をあげる。
「ええ。あなたのスマホ、ちょっと調べさせてもらったわよ。」
無断で調べたことは、本来なら怒られそうな話だが、康平はよほど行き詰まっていたのか、何も言わなかった。
「藁にもすがる思いだったんです。教えてください。」
「いいわよ。一緒に行きましょうか。」
沙希あたりに聞かれたら、一般人を危険にさらすのは、とか言って、康平を説得しただろう。
そう、ここから先は、必ず危険だ。
(まあ、いざとなったら、こいつごと守ればいい。)
悠はそう整理し、席をたった。